9 君が、笑う
窓から空を見れば少し赤くなっていた
もう夕方か、
時間が過ぎるのはなんだか遅いようで早い
そっと胸にてを当ててみれば、ドクドクと聞こえる心臓の音
あ、あたし生きてるんだって、まだ生きてるんだって、この音をきくと思えてくる
ふぅっと息を吐いて目を瞑れば見えてくるのは大好きなノヤの笑顔
あたしはこの笑顔のために生きるんだ、
“名前!!”
『っ、ノヤ…?』
幻聴のように聞こえてきた小さな声に目をあけてみたけれど、もちろんそこには誰もいない
なんだ、空耳か、
自嘲気味に笑ったそのとき、
「名前!!」
『っ!!』
豪快に開いたドアから駆け込んできたのは、息を切らせてた大好きな人
待ち望んだその人が来たはずなのに、あたしはなにも言えず一瞬息を飲んだ
「っ、ハァハァ…っ、おれ、お前に…、言いたいことが、あって…」
言いたいこと?
それってなに?
そう聞きたいのに口が上手く動いてくれず、あたしはただノヤを見つめていた
「っ、手術、受けろ、!」
『っ!』
ノヤの真っ直ぐな瞳にあたしの姿が映る
「…逃げてきた俺が、言える義理じゃねぇ、…でも、俺はお前に生きてほしい、これから先、お前に隣にいて欲しい!だから、」
そこまで言ってノヤは驚いたように言葉をとめた
どうしてそこでやめるのだろうか?
そう思っていたあたしは、自分の頬を伝うものに気づいた
「…泣くなよ、」
『ふっ、っ、』
「嫌、だったか?俺が来たの?」
そんなことはない、その意味を込めて全力で首を降るとノヤはホッとしたように息を吐いた
『の、や』
「…おう、」
『っ、ノヤ、あたし、あたしは…
怖いよ…手術をして、死んでしまったら、もぅ、もう二度とノヤに会えなくなる、それが…っ、あたしは、怖いよ…、』
ボロボロと涙を溢すあたしにノヤはそっと近づいてきた
あたしよりも小さなその体をベッドに座ったまま見上げる
「大丈夫だ!!」
『っ、え、?』
「俺が大丈夫って言ってんだから、大丈夫だ!!
…お前は死なない、だから、手術、受けろ
そしたら、俺は…」
“笑って待っててやるよ!”
ニッと歯を見せて笑ったその笑顔はあたしの大好きな笑顔そのもので、気がつくとあたしは、ノヤの小さな体に包まれていた
『っ、受けるよ、』
「…うん」
『あたし、手術、受ける、だから…』
“笑って待っててね?”
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの笑顔をつくって言うと、ノヤはまた太陽みたいに笑うのだった
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