25 10番隊服隊長は英語教師
『え?英語の先生が?』
「そ!すっっっごい美人なんだって!」
朝学校に来てみると、サクラちゃんといのちゃんがやって来た。
不機嫌そうに眉を寄せた二人から聞いたのは、新しく英語の先生が来とということ。それも、かなり美人の。
『へー…どんな人だろうね』
「…サスケくんに色目使うような悪女かもしれないわ…」
「そうね…もしそんなヤツだったら…!!」
『か、考えすぎじゃない?』
今日も変わらずうちはくんラブな二人に思わず苦笑いを溢した所で、チャイムがなった。
「あ、」「戻ろっか」と言って自分の教室に戻っていく二人を見送っていると、黒崎くんが小さくため息をついた。
「アイツら…朝から元気過ぎだろ…」
『あはは、良いことだよ』
疲れたような顔の黒崎くんは「そうか?」と怪訝そうに眉を寄せた。
もしかして、具合でも悪いのかな?
「大丈夫?気分が悪いとか…」「いや、寝不足なんだよ」「寝不足?なんで?」「…あー…いや、親父がうるさくてよ」「そうなんだ…」
確かに黒崎くんよ目の下にはうっすらと隈が見える。
うるさくして申し訳なかったな。
そう思っていると、ガラッとドアが開いて、坂田先生が入ってきた。
「よーし、朝のホームルーム始めるぞー…」
眠そうに欠伸をしながら入ってきた先生は、教卓の前に立つと「あ、そうだ」と何かを思い出したように私たちを見た。なんだろう?
「今日から新しく英語の教師が増えるわけだが、その人はうちのクラスの副担任になるから、紹介すんぞー」
あ、さっきサクラちゃんたちが言ってた人だ。
どんな人だろう、とワクワクしながと扉を見ていると、少し乱暴にそこが開かれた。
「どうもー!松本乱菊でーすっ!!」
『…え!?ら、乱菊さん!?』
入ってきたのは、なんと、私の従姉妹。
…え?
「あー!名前じゃなあい!!私、あんたのクラスの副担なのねー、ラッキー!」
「苗字、知り合いなのか?」
『う、うん…知り合いっていうか…従姉妹、なんだけど…』
「は」
ポカーンとした顔をする黒崎くん。
うん、その気持ち凄く分かる。
私だってビックリしてるし。
「乱菊さん、いつの間に先生に…?」「教員免許取ったからよー」「ま、前まで違う仕事だったよね!?」「なーんか、先生になりたい気分だったのー」
なんて自由な人なんだろうか。
はあっとため息をつくと、対照的に乱菊さんはニッコリと笑った。
「と、いうわけで、うちの名前に手、出さないでね?」
いい笑顔でそんなことを言う乱菊さん。
呆気にとられているクラスメートたちに、思わず頭を下げたくなった。
「なに?松本先生が従姉妹?」
『ルキアちゃん、乱菊さんを知ってるの?』
昼休み、ルキアちゃんとサクラちゃん、それにいのちゃんとご飯を食べながら、乱菊さんの話をすると、ルキアちゃんが目を丸くした。
「松本乱菊殿と言ったら、剣道を極める女として、知らない者の方が少ないぞ
『…そういえば、乱菊さん、剣道をしていたような…。そんなに凄かったの?』
「もちろんだ。全国大会に常に出場する常連だ」
あの乱菊さんが…信じられないなぁ。
ぼんやりとしながら、紙パックのジュースを飲んでいると、サクラちゃんが不機嫌そうに眉を寄せた。
「…名前の従姉妹だからって油断はできないわ…」
「そうね、サスケくんは守らなきゃ!!」
『あはは、それなら心配ないよ』
「「なんでよ!?」」と揃って声をあげる二人。
仲良しだなぁ。
『乱菊さんには、ちゃーんといい人がいるからさ』
「そうなの?恋人ってこと?」
『ううん。付き合ってはいないけど…絶対両想いだから、乱菊さんと市丸さんは』
「ふーん…その市丸さんってイケメン?」
『…そう、だね。クセのあるタイプのイケメンかなあ』
「へー」
ちょっと安心した顔をするサクラちゃんといのちゃん。
そんな二人に苦笑いしていると、『名前ー!!』と話題の人物が教室のドアを開けて叫んできた。
「ちょ、ちょっと乱菊さん?どうしたの?」「学校の案内してよ」「え?私が?」「そ、名前が」
ニコニコしながら、腕をつかんできた乱菊さん。
仕方ないなあ。
ルキアちゃんたちに一言言ってから席を立つと「ほらほら、行くわよ!」と乱菊さんに腕を引かれて教室をでた。
『ちょ…もう、強引だなぁ』
「……あんた、今、楽しい?」
『え?』
「だーかーら、今楽しいの?」
さっきまでニコニコと楽しそうにしていた乱菊さん。
それが、急に真剣な表情へと変わった。
ああ、なるほど。そういうことか。
眉を下げてジッと見てくる彼女に小さく笑みを溢すと怪訝そうな顔をされた。
「真面目に聞いてるのよ?」
『ふふ、うん、わかってるわかってる。…楽しいよ、今』
「…そっか」
『…うん、だから…心配しなくても平気だよ』
「ありがとう」笑って乱菊さんを見ると、キョトンとされたあと、髪をクシャクシャに撫でられた。
「あ、そうだ。冬獅郎にも、連絡してやんなさいよ?あんたのこと、スッっごく心配してたんだから」
『あー…うん、分かった』
乱菊さんとは別のもう一人の従兄弟、冬獅郎。
やっぱり、心配をかけてしまっている。
苦笑いしながら曖昧に頷くと、乱菊さんは呆れたように息をはいた。
けれど、そのあとすぐに眉を下げて笑って、「何かあったら言うのよ?」と優しく頭を撫でてくれたのだった。
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