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7 君が、決めた


目が覚めたら、また真っ白な天井に戻ってきてしまった
嫌でも鼻につく薬品の匂いに思わず眉を寄せる

『…6時かー…』

今日は土曜日だから、そろそろ部活が終わった頃かな、
なんて考えていたらガラガラと病室のドアが開けられた

「よ!」

『スガさん!!』

片手をあげて病室に顔を出したスガさんは、ニコニコと笑いながら「お見舞い品だべ」と言ってコンビニで買ったであろうプリンを差し出してきた

『ふふ、ありがとうございます』

「こんなことでいいなら、いくらでもするべ」

『じゃあ、毎日頼んじゃおっかなー?』

「…本気なら毎日でも来るけど?」

ニヤニヤしてスガさんをからかうつもりで言ったのに、逆にあっさりと返されてしまった
流石に田中のようには行かないか、と笑っていると、スガさんの表情が少しだけ真面目なものになった

「…名前、君は…」

『手術は受けません、』

「っ、」

聞こうとしたのであろう問いに先に答えると、スガさんは驚いたように、言葉を飲み込んだ

『受けたく…ありません、』

「…このままじゃ、病気の進行は止まらないんだろ?」

『それでも、受けません』

頑なに首を縦に降ろうとしないあたしに、スガさんは眉を下げて困ったように聞いてきた

「どうしてそんなに嫌なのか、聞いても…いいか?」

『…』

「嫌なら無理に、とは言わないよ」と優しく頭を撫でてくれたスガさん
その手をそっと掴んで両手で握ると、スガさんはベッドに腰かけた

『…手術自体はそんなに怖くないんです』

「じゃあなんで…」

『もし、手術中に死んじゃったら、もぅ…ノヤの笑顔が見れないじゃないですか?』

ギョッとしたように目を見開いたスガさん
予想通りの反応に笑っていると、はっとしたようにスガさんはあたしを見た

「それが理由、なのか?」

『…はい…あたしは、ノヤの笑顔が好きです、ノヤが大好きです
だから、もし今手術を受けて失敗、なんてことになって、ノヤと気まずいまま死ぬなんて、…絶対に嫌です』

生きたくないわけじゃない、
でも成功率40%、失敗する確率の方が高いくらいだ
だからせめて…せめて手術を受ける前に、もう一度だけ、もう一度だけノヤの笑顔が見たい

その思いを素直にぶつけると、スガさんはギュッとあたしの手をつかむ力を強めた

『…スガさん…?』

「…え?あ、ごめん」

「痛かったか?」と慌てて手を離したスガさんに首をふれば、ホッとしたようにスガさんは笑った

「…俺じゃ、名前の力にはなれないね」

『え?』

「いや、なんでもないんだ」

ボソリと何かを呟いたスガさんに首を傾げてみたけれど、スガさんはいつものように笑ってはぐらかされてしまった
なんだか納得できないで、スガさんを見ていると困ったように笑って、スガさんは立ち上がった

「じゃあ、今日はこれで」

『…さっきなんて言ったんですか?』

「んー……教えない、

口の前で人差し指を立ててにっと笑ったスガさんに頬を膨らませてみると、また優しく頭を撫でられた

「じゃあ、またな」

『…はい』

ふっと優しく笑ったスガさんは、そのまま病室から出ていってしまった

『また、か…』

スガさんがいなくなった病室は妙に静かだった

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