夢小説 完結 | ナノ
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部屋から出ると、「話せたかい?」と赤司くんがどこか複雑そうに聞いてきた。
不思議に思いながら頷いて返すと、少し黙ってから赤司くんは眉を下げて「良かったね」と笑った。

そういえば、次の本のこと聞いてなかった。

慌てて赤司くんにそれを訪ねると、今度は神妙な顔つきに変わる。


「…ないんだ」

『え?』

「次の本は、まだ見つかってないんだ」


赤司くんの言葉に思わず目を見開いてしまう。
今まで、1つの物語を完成させれば次の本が出てきたのに…。
どうしてだろう、と頭を捻っていると、ポンっと誰かの手が頭の上に乗せられた。


「とりあえず、探すしかないやろ」

『今吉さん…』


手の持ち主は今吉さんで、見上げるようにして彼を見ると、「な?」と笑いかけられる。
ここで迷っていたって仕方ない。
「はいっ」と勢いよく頷くと、今吉さんは満足そうに笑ってから数回頭を撫でてくれた。


「けど、探すってどこを探す気だよ?」

「この部屋やろ」

「はあ?探すとこなんてここにあんのかよ?」

「隠し部屋がないとは言い切れんやろ?」


なるほど。隠し部屋か。
けど、この部屋の外、つまり廊下の方は探さなくてもいいのだろうか?
そう素直に今吉さんに訪ねると「それは大丈夫だろう」と代わりに赤司くんが答えてくれた。


「今まで本が出現したのは全てここだ。ここにある可能性が一番高いからね」

「まあ、どうしても見つからなかったときだけ、ここ以外も探してみよか」


「ほな、やるでー」という今吉さんの言葉を合図に、全員で部屋の捜索を始めた。
花宮さんの寝ている部屋以外の場所、ということなので、私は赤ずきんの本が見つかった部屋を探すことにした。
部屋に入って小さなローテーブルや、ベッドの下を覗いていると、ガチャっと扉が開いて黄瀬くんと笠松さん、それに森山さんが入ってきた。


「ここは苗字さんがしてくれてたんだね」

「何かあったか?」

『…何も、見つけられなくて…』


困ったように笑って3人を見ると、ふと黄瀬くんの様子がおかしいことに気づいた。
そういえば、花宮さんに会いに行こうとしたときもなんだか変だった。
「黄瀬くん?」と首を傾げると、悲しそうな顔をした黄瀬くんと目が合う。


「…さっき、花宮サンと何話したんスか?」

「おい、黄瀬っ」

『花宮さんと?花宮さんの体調のこととかだよ?』

「…本当に?」


どこか怪しむように見てくる黄瀬くん。
なんだか、怖い。
不安に思って、思わず笠松さんと森山さんを見ると、笠松さんが呆れたように黄瀬くんの頭を叩いた。


「いたっ!な、何するんスか!!」

「心配なのは分かる。けど、お前がコイツ怖がらせてどうすんだ」


笠松さんの言葉に、えっ、というように黄瀬くんが私を見る。
良かった、いつもの黄瀬くんだ。
ホッとして笑顔をこぼすと黄瀬くんが泣きそうに顔を歪めた。


「ごめんっ、名前っち…おれ、その…心配で…」

『心配?どうして花宮さんと話すことが心配なの?』


そう首を傾げると、黄瀬くんだけでなく笠松さんと森山さんまで複雑そうに眉を寄せた。


「…あのな、苗字。花宮は俺たちの中じゃ、決していい噂を聞かないようなヤツなんだよ」

『花宮さんが?』

「だから黄瀬は、過剰に心配してんだよ」


どこか言いづらそうにそう言った笠松さんはソッと視線を黄瀬くんに戻した。
それにつられて黄瀬くんを見ると、意を決したように黄瀬くんが顔をあげた。


「俺、名前っちが好きっス」

『…え……』

「もちろん友達としてじゃないっスよ。名前っちの彼氏になりたいんス」


真っ直ぐな目で見つめてくれる黄瀬くんに、頭の中は混乱する。

だって黄瀬くんモデルをしてほどカッコいいのに、なんで私なんかを好きだなんて言ってくれるのか分からない。
宮地さんも黄瀬くんも、どうして私を好きになってくれたのだろう?

何と返せばいいのか分からなくてつい押し黙っていると、黄瀬くんが自嘲気味な笑みを溢した。


「…けど俺、気づいちゃったんス…。名前っちの“特別”は俺じゃないって」

『とく、べつ…?』

「ねぇ、名前っち。名前っちは花宮真をどう思ってる?名前っちの眼にはあの人がどんな風にうつってる?」


ジッと見つめてくる黄瀬くん。
真剣な黄瀬くんの言葉を流すなんてできるわけない。
黄瀬くんの気持ちにちゃんと返さなきゃいけない。

“花宮さんをどう思ってるのか”

それは、もう答えが出ている気がした。


『花宮さんは、凄く…凄く大事な人』

「っ!」

『…自分でもよく分からないけど…花宮さんの側に居たいって、思うの…』

「けど、アイツは…!!」

『…もしかしたら、私が知らないだけで、花宮さんは凄く怖い人なのかもしれない。…でもね、それでも私、花宮さんのこと知りたいって思うの。だって…たとえそれが本当の花宮さんでも、花宮さんが私にたくさんの事を教えてくれたっていう事も本当だから』


黄瀬くんの金色の瞳を見つめながら、一言一言噛み締めるように言うと、黄瀬くんがソッと目を伏せた。


「…ズルいっスね、花宮サン。そんな風に言わせるなんて…」

『あのね、黄瀬くん。私、黄瀬くんに好きって言ってもらえてとても嬉しかった。私も黄瀬くんのこと好きだから。けど…多分この“好き”は黄瀬くんの言ってる“好き”とは違うんだろうね…』


黄瀬くんのことも、宮地さんのことも好き。
大切な人達だって心から言える。
でも、さっき黄瀬くんが言った言葉が凄く響いた。


“私の特別な人”


黄瀬くんはそれは自分じゃないって言った。
じゃあ特別ってなんなのかなって考えたとき、
やっぱり初めに浮かんだのは、花宮さんだった。

悔しそうに、でもどこか仕方がないって顔をした黄瀬くんは小さな笑みを溢した。


「…お願いがあるんスけど…」

『お願い??』

「…俺、名前っちの声が戻ったら、ずっとしてもらいたかったことがある」

『私にできることならなんでもするよ?』

「じゃあ…名前、呼んでくれないっスか?」


それだけでいいのだろうか?
キョトンとして黄瀬くんを見つめ返すと、黄瀬くんが「だめっスか?」と眉を下げた。


『ううん、ダメじゃない。…私なんかを、好きになってくれて、ありがとう、涼太くん』

「…ははっ…俺こそありがとう、名前っち」


そのまま黄瀬くんは私の頭を数回撫でると、部屋の外へ出ていってしまった。
「黄瀬が悪かったな」と言った笠松さんも、そのあと黄瀬くんを追いかけるようにして出ていってしまった。
部屋に残ったのは森山さんと私。
森山さんは追いかけなくていいのだろうか。
森山さんを見上げると、とても優しい笑顔が返ってきた。


「ありがとう、苗字さん。黄瀬とちゃんと向き合ってくれて」

『いいえ、私は何も…』

「いや、黄瀬はガキだから、多分君がはっきり言うまで分かろうとしなかっただろう」


「だからありがとう」ともう一度お礼を言われて。なんだ少し照れ臭い。
「はい、」と笑って頷き返すと、森山さんは満足そうな顔をしたあと、「それにしても…」と肩を落とした。


「…苗字さんの好きなヤツが花宮になるとはなあ…」

『…え?』

「え?花宮が特別って、それって花宮が好きってことじゃないの?」


不思議そうに首を傾げてくる森山さん。
そっか、そういうことか。
特別ってそういうことだったんだ。
私、


『(花宮さんが、好きなんだ…)』

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