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The Little Red Riding Hood 3


「…なるほどね…」


神妙な顔つきで考え込む実渕さん。
〈これからどうするべきでしょうか?〉と実渕さんの用意してくれた紙にそう書くと、実渕さんはチラリと青峰くんと黄瀬くんを見た。


「…この二人に名前ちゃんを預けるのは物凄く心配だけど…」

「「どういう意味だよ(っスか)!!」」

「やっぱり、おばあさんの家に行ってみるべきだと思うわ。でなきゃ、物語の進めようもないし…」


やっぱりそうなのか。
〈分かりました〉と頷いてみせると、実渕さんはさっきよりも心配そうに眉を下げた。
そんな実渕さんに笑ってみせてから、 黄瀬くんと青峰くんと家を出る。
そのとき、二人に実渕さんが「死んでも名前ちゃんのこと守るのよ?できなきゃあたしも征ちゃんも黙ってないからね?」と、なにかを言っていたけれど、うまく聞き取れなかった。








「…ここっスね…」


三人で再び花畑まで向かって、そこから先へ進むこと数分。
お目当ての“おばあさんの家”は案外すぐに見つかった。
森の中にある赤い屋根の小さな小屋。
この中におばあさんはいるのかな?
「お前はここで黄瀬と待ってろ」と言った青峰くんはそのまま小屋にある唯一の窓へと向かった。大丈夫かな?
不安そうにそれをみていると、「それにしても…」黄瀬くんが微妙そうな顔をした。


『〈どうしたの?〉』

「……青峰っちの耳と尻尾姿ってなんていうか…」

『〈?可愛いよね??〉』

「や、それはないっス。名前っちの猫耳姿とかなら大歓げ…「てめーはなんの話してんだよ!!」いたっ!」


あ、良かった。青峰くん戻ってきた。
「何するんスか!!」「下らねぇこと言ってるからだろうが」耳に小指を入れながら面倒そうに黄瀬くんをあしらう青峰くんに苦笑いをしていると、青峰くんが思い出したように口を開いた。


「…小屋の中には、ばあさんが1人いるだけだったよ」

『〈そっかあ…じゃあ、最初は物語通りに、私がおばあさんと話してみるね〉』

「え!?けど…」

『〈大丈夫!何かあったら逃げれるようにするからね』


胸を張ってそういうと、二人が微妙そうな顔をした。
実渕さんもこの二人も心配性だなあ。
小さく笑みを溢してからバスケットを抱えて小屋へと向かうと「気をつけて!!」と後ろから黄瀬くんに声を掛けられた。
それに手を降ってから、一回だけ深呼吸。

よし、行こう。

小屋の扉をノックすると、「はぁい、お入り下さいな」中からとても優しい声がした。
それに答えるように扉を開けると、先ず目に入ったのは大きなベッドとそこに横になっていた1人のおばあさんだった。


「あらあら、赤ずきん。よく来てくれたねぇ」


上半身だけ起こして私を迎えてくれたおばあさんは、顔色が悪く、痩せ細っている。
本当に具合が悪そうだ。
「ここにお座り」と言われて、ベッドの横の椅子へ座って、おばあさんにバスケットの中を見せると、おばあさんは「わざわざありがとう」と笑った。

やっぱり、普通のおばあさんだ。
どうすれば物語を進められるだろうか、と考えているとおばあさんが急にゴホゴホと咳き込み始めた。
慌てて擦った背中は、とても小さい。


「ゴホ…ゴホッ…ごめんねぇ…最近、どうにも調子が悪くて…」

『〈何かできることがあったら言って下さい〉』

「…ありがとう。だけど、大丈夫だよ」


柔らかく笑ったおばあさんは、弱々しく私の手を握った。
そんな姿が、重ねて見えてしまった。
私の本当のおばあちゃんと。
自分よりも華奢なそのてを握り返すと、おばあさんの手にも力が込められた。
ゆっくりゆっくりと込められていく力。


『(…あれ?)』


さっきまで、あんなに弱々しかった握る手が、何故か物凄く強くなっている。どういうこと?
不思議に思って、おばあさんを見つめると、のく口元が三日月のように歪んだ。


「…ワタシハ、オマエガイテクレタライイヨ」

『(え…?)』

「オイデ、赤ずきん。オイデ…」


おかしい、さっきまでと様子が違う。
おばあさんから手を離そうとするけれど、握られる力が強くて離れない。
どうしよう、と唇を震わせたとき、おばあさんのもう1つの手が首にあてられた。


「ワタシヲヒトリニシナイデオクレヨ」

『っ……(息、が…)』


徐々に絞まっていく首。
苦しさから生理的な涙が込み上げてくる。


誰か…助けて…。


朦朧とする意識を飛ばしかけたときだった。


「「苗字(名前っち)!!!」」


バンっと音をたてて扉を開けて入ってきた二人。
すぐさま青峰くんは、近くあった椅子でおばあさんだった“ソレ”を殴った。


『っぅ…ゲホっ…!』

「名前っち!!大丈夫…じゃないっスよな…。ごめん、ごめんね…俺たちがもっと早く気づいてれば…」


ギュッと抱き締めてくれる黄瀬くんは、まるで壊れ物を扱うように優しく撫でてくれる。
落ち着かせようとしてくれているのかもしれない。
目元に溜まっていた涙をゴシゴシと拭って、黄瀬くんになんとか笑顔を返してから、青峰くんとおばあさんだったモノを見る。


「…これのどこが“普通の”ばあさんだったんだよ…」


「冗談じゃねぇ」と乾いた笑みを溢した青峰くんは、目の前のソレに冷や汗を流した。
裂けた口角、そこから見える鋭い歯。右目は真っ赤に染まり、左目は眼球そのものがない。両手の爪は鋭くなっていて、まるで鋭利な刃物のようだ。

目の前のソレに背中に嫌な汗をかいたとき、ソレはニヤリと笑みを浮かべた。


「オイデ、オイデ、アカズキン」

『っ』

「黄瀬えええ!!ソイツ連れてここから出ろ!」

「了解っス!」


明らかに私に向けられた手招きに、体を震わしていると、青峰くんが黄瀬くんに向かって何かを叫んだ。
すると、黄瀬くんが私を抱き上げて、唯一の扉へ向かったのだけれど、

“ガチャ”


「…は」

「おい、なにやってんだ!!」

「あ、開かないんスよ!!」

「はあ!?」


ガチャガチャと、何度も何度もドアノブを回す黄瀬くん。
けれど、扉は一向に開く気配がない。
「窓から出ろ!」という青峰くんの言葉にハッとした黄瀬くんは、今度は窓へ向かったのだけれど。


「だ、ダメっス!こっちも開かない!!」

「クソが…!!」


鍵のかかった窓は一向に開く気配をみせない。
ギリッと奥歯を噛んだ青峰くんは、椅子を持って応戦しているけれど、何度殴っても“ソレ”は倒れない。
逃げられない。
そう踏んだ黄瀬くんは、青峰くんを手伝うために、近くにあった箒を手にした。
「絶対ここで待っててね!!」そう言って、青峰くんの元へ走る黄瀬くん。


『(なんとか、しなきゃ)』


“アレ”は私を狙っている。
青峰くんと黄瀬くんに頼るだけじゃない。
自分の力でも、どうにかしないと。
グルリとあたりを見回すと、側に暖炉があってその上にマッチがある。

そうだ。確か、赤ずきんではないけれど、他の物語で、魔女を鍋に入れて燃やす話があった。
もし、この火で“アレ”燃やせるなら…。
ゴクリと唾を飲み込んでマッチを握りしめ、今度は火力を上げるために灯油を探す。
この世界に果たしてあるのだろうか。
そう思いながら、青峰くんたちに背を向けたときだった。


「っ!苗字!!!!」

『(え…)』


青峰くんの言葉に振り向いてみると、見えたのは鋭い爪。“ソレ”はいつの間にか私の目の前に来ていた。
咄嗟に足を引くと、何かにつまずいてそのまま尻餅をついてしまう。

コロサレル。

ギュッと拳を握ったとき、手のなかにあるソレに気づいた。
せめて、青峰くんと黄瀬くんは助けなければ。
まるでスローモーションで手を伸ばしてくる“ソレ”。そのせいで見えないけれど、青峰くんと黄瀬くんが叫びながらソイツの背中に向かって何かを投げつけた。


「ウアアアアアッ」


奇妙な声と共にゆかに沈んだソレ。
慌ててマッチを取り出して火をつけると黄瀬くんが驚いたように此方をみた。


「名前っち!?」

「ばっ!!そんな至近距離で何して!」


分かってる。けど、私の後ろには暖炉があるだけ。
これ以上下がることはできない。
逃げたって、またコレは起き上がるのだ。だったら。

箱に擦ったマッチに鮮やかな赤が灯る。
それをほぼ真下に倒れるソイツに向かって投げると、真っ白な髪の毛が赤い火に包まれる。


「苗字!!!」


青峰くんの叫び声がした、その瞬間。


“ドカアアアアアアアアン!!”


まさか、ソレを燃やして爆発するなんて、誰が思っただろう。
薄れる意識の中、聞こえてきた二人の声。
よかった、彼らは大丈夫そうだ。
それを確認してから、ゆっくりと意識を沈めていくとうっすらと見えていた視界は真っ黒になった。

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