little boy
あれ?私、どうしたんだっけ?
ゆっくりと瞼を開くと、白い光が目に入る。
“起きた?”
“!?”
次の瞬間、目の前に現れたのは小学校低学年くらいの男の子だった。
ビックリして固まっていると、男の子が愉しそうに笑った。
“驚かせてごめんね。お姉さんのこと、本当は巻き込むつもりはなかったんだよ?”
“(…巻き込む?)”
“僕はただ…あの人たちに興味があっただけなんだ”
あの人たちというのは皆のことだろうか?
それを聞こうとした瞬間、白い光がだんだんと消えて、男の子も薄くなっていく。
待ってくれ、そういうように男の子に手を伸ばすと、彼は柔らかく笑った。
“楽しい物語、待ってるね”
“またね”と笑った男の子はそのまま消えてしまい、私の意識も再び沈んでいった。
「っ!名前ちゃんっ!!!」
『(…あれ?)』
再び目を覚ますと、人魚姫の物語から目覚めたときのように、さつきちゃんとリコさんの顔が目に入った。
でも、二人の顔があのときとは違う。
泣きそうな表情だ。
まだハッキリとしない意識で二人を見つめながら、体を起こすと、ふいに誰かに胸ぐらを捕まれた。
「ふざけんな!!!」
「なっ!?お、おい!花宮!てめぇ!!」
掴んできたのは、花宮さんだった。
突然のことに驚いて目を見開くと、花宮さんの綺麗な顔が怒ったように、けど、どこか悲しそうに歪んだ。
「てめぇの頭には“自己犠牲”って言葉しかねぇのか!?また、同じこと繰り返すのか!!」
同じこと。
そう言われたとき、頭を過ったのはあの日のことだった。私が、トラックに向かって飛び込んだあの日。皆が、生きていいと気づかせてくれたあの日。
冷静な花宮さんがこんなにも怒っている。
そっか、私はまた間違えたのか。
『…“ごめんなさい”』
「…それは、何に対しての謝罪だ?」
顔をうつ向かせて口パクで謝ると、花宮さんが手を放してくれた。
目を細める彼に、今度はボードを手にとった。
『〈自分を大事にしなかったから…』
「…」
『〈だから、ごめんなさい〉』
反応を示してくれない花宮さんに、再び頭を下げると、花宮さんがため息をはいた。
呆れられたのだろうか。
顔をあげてかれをみると「俺に謝ったって仕方ねぇだろうが」と頭をクシャリと一撫でされた。
ホッとして、笑みを溢すと、今度は後ろに腕を引かれた。
「っ…」
『(き、黄瀬…くん?)』
腕を引いたのは黄瀬くんで、背中から抱き締められている。
彼が震えているように感じるのは、多分気のせいじゃない。
ソッと回された手に自分の手をかさねると、ピクっと黄瀬くんが反応した。
顔を見ようとやんわりと腕を解いて振り向くと、泣きそうな顔をした黄瀬くんと目があった。
『〈心配かけて、ごめんなさい〉』
「っ…先に謝られたら…怒れないじゃないっスかっ…」
泣きそうに、けど安心したように笑った黄瀬くん。
「無事で良かった」と頬に手を当てられたとき。
「どけ」
「うわっ!!ちょっ…何するんスか!青峰っち!!」
「うっせ。…苗字」
『?』
「このバカ!!」
『っ!!』
黄瀬くんを退けて目の前に来た青峰くんは、ジッと見つめてきたかと思うと、彼の大きな手が延びてきた。
なんだろう?とソレを見ていると、凄い勢いでデコピンされた。
『っ!!』
「…これですんで良かったと思えよ…。…たく、心配させやがって…」
はあっと息をはいて肩を落とした青峰くん。
周りを見ると、他の人たちも同じように肩から力を抜いていた。
私、馬鹿だ。
こんなにたくさんの人に心配かけたのも馬鹿だけど、それよりも。
『(こんなにたくさんの人に心配してもらえるのが嬉しいだなんて…)』
思わず溢した笑み。
それを見た青峰くんに「何笑ってんだ」と頭を小突かれた。
「…とりあえず、2冊目も完成したなぁ…」
「…そう、ですね」
今吉さんの言葉に黒子くんが頷いた。
そこで、さっきの男の子の事を思い出す。
『〈あの、〉』
「?どうかしたかい?」
『〈さっき、夢…みたいなのを見たんですけど…〉』
「…夢?」
『〈はい、そこで、男の子に会ったんですけど、その子が言ってたんです。「楽しい物語、待ってるよ」って〉』
「…物語…」
顎に手を当てて何かを考える赤司くん。
やっぱり、私たちがここにいるのはあの子が関係してるのかな?
赤司くんと同じように難しい顔をしていると、「とりたあえず、」と今吉さんが口を開いた。
「一回休憩としよか」
「…そうですね。新しい本も見つかってますし」
「…だな。新しく本を開く前に一回休もうぜ」
今吉さんの提案に、皆が肩の荷をおろした。
それに習って、私も小さく息をはくと「大丈夫かい?」と氷室さんに頭を撫でられた。
いけない、また心配かけちゃう。
慌てて〈大丈夫です〉と返すと、氷室さんが困ったように眉を下げた。
「…無理しなくていいんだよ?君は一番疲れているだろうしね」
「そうよ名前ちゃん。人魚姫の本のあった部屋で休んできたら?あそこはベッドもあったしね」
氷室さんだけでなく、実渕さんまで。
疲れているのは私だけじゃないのに。二人だって疲れてるに決まってるのに。
ちょっと迷ったけれど、二人の気持ちを無下にもできないので、言われた通りにさせてもらおうと頷いてみせると、満足そうに笑った実渕さんがリコさんもさつきちゃんを呼んだ。
「この子、あの部屋で休むから頼んでいいかしら?」「はい!任せて下さい!」「男共には頼めないしね」
そんなやり取りをしたあと、リコさんが私の背中をおして、あの部屋と入っていく。
「おやすみ」という赤司くんの言葉を背に中へ扉を閉めると、あれよあれよという間にベッドに押し込まれる。
気を失っていたとは言っても、さっき目が覚めたばかりで寝れるかな?
そんな心配をしていたけれど杞憂だった。
「おやすみ、名前ちゃん」というさつきちゃんの言葉を最後に瞼はゆっくりと下がっていった。
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