猫のあしあと
 
この町に引っ越してきてから一年が経つ
高校に通ってても春がくることもない
親も仕事で忙しい
そのうち私は、家に帰らなくなった

今日も夜の神室町で見えない星を見ながらブランコに座っていた

「みゃー」
『…猫か』

猫の前にしゃがみこんでおいでおいでーと喉を鳴らす
猫は一度鳴くと反対側に歩いていった

『あ、もう、おいでってば』

私も反射的に猫を追いかけていた



猫の後ろ姿を追って、場所もわからなくなっていた
それでも歩く猫を追う
このまま違う世界に行っちゃわないかななんて中二病紛いのことを本気で考えたりした


しばらくすると目立たない路地裏まできていた
猫は階段を登っていた
私は猫の後をついていき、建物の屋上まできた

『…あ』

こんな時間にも関わらず、屋上には人がいた
離れていても風で運ばれてくる煙草の臭い
私はその後ろ姿をしばらく見つめていた

「なに?」
『わあ!』

気づくと遠くにいた人が目の前まできていた

「なんか用かな?」
『い、いえ…あの、すいません…』
「いや、いいんだ。高校生がこんなとこで、どうしたの?」

30代くらいの男の人は私の制服姿を見て言った

『散歩です』
「へー…」

この人はきっと私が家に帰っていないことを分かってしまっているんだろう。そう思った。

『あなたは?』
「俺は…見てわかるでしょ?おじさんタバコ吸ってたの」
『わかります』
「だよねえ」

この人は初対面の私にへらへらと笑ってきて、なんだか友達のような感覚だった

『…』
「…」
『…』
「…家、帰らなくていいの?」

口から臭いのするけむりを吐き出した
私は彼の言葉に俯く

『帰っても、楽しくないから』
「なるほどねえ」

ふう、とまたけむりを吐く

『あなたは?』
「俺の勤めてる会社が、この下なの」
『へえ。だからここで煙草吸ってるんですか。』
「まあたまたま夜風に当たりたいと思ったからかもしれないけどね」

ふーん、と言いながら彼と同じ方向を見つめた

『…あの、貴方は私みたいな…』
「秋山だよ」

秋山さんというのか

『…秋山さんは、私みたいなのに何も言わないんですか?』

秋山さんは不思議そうに私を見る

『私みたいな制服姿の高校生に早く返りなさいとかそういうの、言わないんですか?』
「言って欲しいの?」
『そうじゃないですけど…』
「じゃあいいじゃん」

また煙を吐き出した
あっさりと言われて、なんだか唖然としてしまう

「さて、そろそろ本当に寒くなってきたし、俺は帰るよ」
『はい』

送っていこうか?としつこく言う秋山さんに、慣れていると伝えてカンカンと音を鳴らして階段を降りる
秋山さんがドアを開いたとき、また来ていいよと言った気がした
そのドアを閉める前に私は声を出した

『あのっ!』

ドアからなに?と優しい声で出てきた彼に目を合わせ

『なまえです!』

では!と言って家に向かって走った
ドキドキする感覚に惑わされながら

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