―バレンタイン2日前。

千鶴ちゃんが平助や友人達に渡すチョコの材料を色々と買いたいので放課後付き合ってくれませんかと頼み込んで来たので、今現在千鶴ちゃんの付き添い中。

その時は何で僕なんかに?とか疑問が湧きながらも承諾したんだけど。


一通り材料を買い揃え入り口から出てきた千鶴ちゃんに
「そういえば…沖田先輩はチョコ渡さないんですか?」

と聞いてきて。
その後に"永倉先生に"とコソコソっと耳打ちを立てる様に小さな声で聞いてきて

「はあ……!?僕が…っ」

と、思わず大きな声が出てしまった事に吃驚して慌てて口に手を充てて周りを確認する。

…しまった。

ここチョコ専門のお店の前だった……幸い入り口前には人が疎らで気付かれなかったようだ。…危なかった。

軽く溜め息を付いてちょっと入り口から離れようか、と言って近くのベンチに二人で座って改めて周りに聞こえない声で会話を続ける。


「…で、何で男の僕が永倉先生にチョコ渡さないといけないの。
千鶴ちゃんが平助や友達に渡すのは分かるけど…
バレンタインって女の子のイベントのようなもんじゃない。」


「え?だって…お二人恋人同士ですし。それに男も何も関係無いと思いますよ?
こういうのって気持ちの問題だと思いますし」

「………」

うーん……まあ、それはそうなんだろうけどさ。

ていうかそうだった。
千鶴ちゃんには絶対に内緒という約束で言ってあるんだった。

―永倉先生と付き合ってるっていう事。

千鶴ちゃんて男同士とか…そういう偏見がないというか分け隔てがない子だから。だから嫌いじゃないんだよね。

……怒らせると黒いオーラが凄いけど(あのキンキラ変態生徒会長だけに発揮するんだけどね)

だから僕にチョコの材料買いに付き合って欲しいとか言ってきた訳か。

「あー……うん…まあ、考えておくよ」

絶対ですよ、と千鶴ちゃんと約束をして互いに自宅へと帰路に着いた。


――でバレンタイン当日。

「けーっきょく買っちゃったなあ……」

ちらっとカバンを見やる。

通学用カバンから覗くのは緑色の包装紙に包まれたチョコの入った箱。

結局何だかんだ前日にお店に行って、安売りしてある沢山のチョコから永倉先生が好きそうなものを一生懸命選んで購入した。
周りの視線が凄く気になったけど、一年に一度のイベントだし。
……さて、どう渡そうか。


そんな事を考えながら…既に昼休み。

(と、いってもなあ…)

はあ、と屋上のフェンスに凭れて座りながら雲一つ無い空を見上げる。
一人になりたい時や昼休みは大抵屋上でぼんやりとしている。

今日は数学の授業無い日なんだよね。
いや授業無くても自分から会いに行こうと思えば行けるんだけど、校内で渡すのはやっぱり勇気がいる。

「やっぱり止めようかな…」

「何がだ?総司」


「え?…うわ!永倉先生…っここ学校ですよ、名前で呼ばないで下さいよ!」

考え事をしていたからドアの開く音も近づいて来る気配にも全然気付かなかった。

「あ、やべ…っすまん。そ………沖田!」

「…まあ誰もいないから良いですけど。それよりもどうしたんですか?先生って普段ココには来ないくせに」

すると途端に口ごもる。

「いや、まあーあの…アレだ。自分から言うのってどうかと思うんだけどよ。
今日ってあの日…だろ?お前も用意してたりする……のかなーって気になっちまって」

永倉先生のその言葉に目を丸くする。
……まさか。永倉先生が行動を起こしてまで聞いてくるなんて。

「あの日……ってバレンタインのチョコって事ですか?生憎チョコは買ってないんで今手元にないんですよね。期待してたんだったらすみません」

――嘘。
ひねくれた性格が邪魔して素直にあるって言えなかった。
本当は渡したくて渡したくて仕方ないのに。

「あ、まあ……そりゃ仕方ないな。
お前からだったらチョコ貰えるっていう確信が何処かであったからよ。悪かったな」
ぽんと栗色の髪を撫でて用はそれだけなんだ、じゃあなと屋上を立ち去っていった。
「………」

そんなに僕から欲しかったんだ……。

――ズキン。
………心が、痛んだ気がした。


―放課後。

結局あんな事があったせいで、渡すことが出来なかった。悩みに悩んで処分に困ったけれど、このままじゃいけないと思う…気がする。
そう思い、とある場所へ向かった。


――――

夕日はとっくに沈んで辺りはすっかり暗くなり、まだまだ寒いこの時期。マフラーも手袋もダッフルコートも着ているがあんまり意味がない気がする。
いよいよ芯から冷えて始めてきた。
あとどれくらいで永倉先生は帰って来るのだろう。

はあ、と手をこすっているとカンカンカンと階段を昇ってくる音が聞こえてきた。


「………どうもこんばんは。」
ヒラヒラと手を振ってみる。

「…っどうもこんばんは。じゃ、ねえよ!いつからドアの前で蹲っていやがったっ」

「んーーと学校終わって放課後から直行でなんで、約四時間くらいですかね?」

「だあああっ何してんだっ
そんなとこ居ねえで、中入れ!こんな冷えやがってっ」

ガチャガチャっと玄関の鍵を回して急いで中に招き入れてくれた。

マフラーや手袋、ダッフルコートを脱ぐと、コタツに入っとけと無理矢理座らされた。

「相変わらず、きったない部屋ですね」

「うっせー自分から来といて文句言うな」

ブツブツと言いつつ、永倉先生はミルクティーを出してくれる。ぶっきらぼうだけど人を突き放す様な事はしない。

息を吹きかけて熱を冷ましながらミルクティーを口にする。
身体の先まで染み渡っていくようだった。
人当たりが良くて笑顔に心が惹かれ―…とそうだった、本来の目的を忘れる所だった。

「ねえ、永倉先生」

「…ん?」

「………チョコ……本当は手元にあるんです。無いとかひねくれた事言っちゃって…すみませんでした」

と言ってガサコソとカバンからチョコをはい、と手渡す。

「…へ?」
いきなりの発言に今度は永倉先生が目を丸くさせて驚いてる。そりゃ、そうか。


「ひねくれた性格ってのは前からだし……気にすんなよ。今貰えて凄く嬉しいからよ……なあ食べてもいいか?」

コクン、と頷くと嬉しそうにガサガサっと包装紙を外して箱を開けてチョコを口にする。

その姿にああやっぱり渡して良かったと、心の中で千鶴ちゃんに有り難うと感謝の言葉を呟いた。


「正直……永倉先生のチョコの好みって分かんなかったからビターにしちゃったんですけど、お口に合いました?」

「……んーそうだな。甘いのが好きかもな」
「え」
ぐい、と腕を引っ張られて永倉先生の胸の中にぽすんと収まって。

吃驚して先生の顔を見上げると、顎を手で固定されて唇を合わせてきた。

―まって。いきなり何でこんな事になってるの?頭はパニックになり、いつになく大胆な行動に身体が吃驚して動くのを忘れていた。

「ん……っ」

いつもより長い。
呼吸が上手く出来ない。

「は……なが、くら…せん、せ…」

呼吸の合間に息切れ切れに言ったらココは学校じゃないんだから新八って呼べと言われ、更には舌も絡め取られ散々中を貪られやっとの所で解放してくれた。

はあはあと息を整えていると今度は……

…ドサッ。

「……え?」
視界は天井と新八さんの…顔。もしかしなくても………これ、は。

「送って行ってやるからよ。久々に、な」

…ヤバい。
新八さんの目が猛獣みたいに何かギラギラしてる…これは逃げないと駄目だと本能が告げている。

「新八さんちょっと………待ってよ。急に盛んないで下さいよ!」



こんな展開になるなら素直に学校で渡せば良かったと後悔する総司なのであった。



***

一日遅ればせながらアップ。
まあ当日急遽書こうと思い立ったので仕方ないんですけどね。
千鶴ちゃんと平助くんは付き合っている設定です。触れてないですが。

…あれ、こんな終わり方のはずじゃあ…?自分でも予想外な方向に…。盛ってしまった新八で終わってしまった(笑)何か文章可笑しいとこあったらスミマセン。
後々また見直します〜やけに長い…。


2012.2/15
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