ニャンコと友達!(いち)



誰も居ない昼下がりは、つまらない。

それは弱冠五歳の山崎涼子にも言える事らしく、自分のスペースにと設けられた山崎退の部屋の一角で、涼子は寝転がったまま足をばたつかせていた。



宇宙へ出張に行った父親の言い付け通り、与えられた勉強ドリルを一日一ページ熟してはいる。
しかし、そんなに難しい物でもないので、昼食前には終わってしまう事が殆どだ。

今日も例に洩れず、午後にはやる事の無い手持ち無沙汰な時間が出来てしまった。




「……にぃにがいないと、つまんなぁい…」


涼子はぱたぱたと足を動かし、そう呟いた。

一番親しい存在である退が居ないと、涼子にはつまらなくて堪らない。



「うぅー…、おしごとだもん。…しょうがないよね」



ね、ウサギさん。

寝そべったまま、胸中のぬいぐるみに話し掛ける。
相槌を打たせるように、そうだよね!とうさぎの手を動かすが、涼子はふて腐れて頬を膨らませた。


とにもかくにも、ヒマなのだ。


ごろごろと畳の上で寝返りを打ち続け、不意に部屋の外に目を向ける。
すると開け放された廊下を、一匹の猫がちょうどよく横切る瞬間だった。



「にゃんこー!」

ガバッと起き上がる。
同時にそう叫べば、歩いていた猫は物音にビクつき涼子に顔を向けた。

喜々として笑みを浮かべる。猫はそんな涼子から逃げるように、進めていた足を急がせた。


脱兎の如く駆け出す猫。
しかしやる事が無かった涼子は、興味津々である。
キラキラと目を輝かせ、猫の走り去った方向に向かう。

しかし、部屋を出たそこに人が居た事に気付かなかった涼子はぶつかってしまった。


──ドタッ


猫の事だけを考えていて勢いよく走り出した涼子は、ぶつかった反動で思い切り尻餅をついた。


「ご、ごめんなしゃい…」



そう謝って、ぶつかったその人を見上げる。

そこに立っていたのは、此処に来た後に一度だけ挨拶をしただけの人物。
くい、と眼鏡を上げ、彼は涼子に視線を合わせるように膝を付いた。



「大丈夫かい?」

「わたしは だいじょーぶっ。イトーサンも、だいじょうぶ?」


ああ、と言う伊東の短い返答に、涼子はへらっと笑った。
尻餅を付いたままだった涼子を持ち上げ立たせると、涼子は「ありがとう」とまた笑う。



「そんなに急いで、何をしていたんだい?」


目を細め、伊東は涼子に訊ねた。



「ん、っとね、ネコさんがいたの。 ネコさん、わたしのコトみて、たーっていっちゃったから、おっかけたら…ぶつかっちゃって…。」


吃りながらも、涼子は笑む伊東に事情を話す。
その内容を理解した伊東は、涼子を抱き抱えると来た道を引き返し始めた。


「ぅ…イトーサン?」


「涼子ちゃんは猫を探しているんだろう?」

「う、うん!」

「僕の部屋の側なら、猫が沢山居るからね。そこまで連れていくよ」


腕の上に座らせる様に涼子を抱え上げた伊東は、そう言って部屋へと向かった。

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