絢爛ちんとんしゃん
(いち)
!attention!この話は当サイトの混合夢『trip*trap』とのコラボです。
trip*trapヒロインはデフォルト名『小百合』でお送りしています。
Trip*Trapの番外編『
爪弾いて愛の花』の続編です。
べん、と音が鳴る。
その音に、幼い少女は目を輝かせた。
「サユリおねーちゃん、すごい!」
ぱちぱちと小さな手から発せられる拍手に、奏者であった小百合は満足げに笑った。少女こと、涼子の隣で同じように手を叩いていた山崎は、思わず感嘆の息を洩らす。
以前、隊士の前で披露したというその三味線を見れなかった山崎が、小百合に少々の無理を言って演奏してもらったのだ。
「えへへー、涼子ちゃんが喜んでくれてよかったぁ。三味線、聞いた事あった?」
「ううん、しゃみせんきいたの はじめて! すごくきれいな おとなんだね!」
手を上にあげてひどく興奮した様子の涼子は、「にぃにも、そう おもうよね」と山崎の膝を叩いた。その衝撃に、はっと我に返る。
涼子の『きれい』という言葉に頷き、「小百合ちゃん、綺麗だったね」と微笑みながら言った。そんな山崎の目を見ながら、小百合は少し恥ずかしそうに表情を歪める。
「…さがるん、涼子ちゃんは小百合の事を褒めたんじゃないと思うけど…」
「えっ? あ、あれ、ごめん!」
しまった、失言だ。そんな歯の浮くような台詞を垂れ流そうなんて思ってなかったのに。
思わず口を手で覆ったけれど時すでに遅く、小百合の頬にはほんのりと朱が注がれていた。そんな小百合を見た涼子は、しきりに瞬きをしてから首を傾げる。
「サユリおねーちゃん、かおあかいよ? おねつある?」
「へっ? だ、大丈夫だよ!」
「あのね、かぜひーたら、たいへんなんだよ。おくすりのまなきゃいけないんだよ。 わたしがこんこんすると、にぃにがおくすりもってくるんだけどね、それがすっごくにがいの!」
薬がいかに嫌いかを必死に唱える涼子に、小百合は思わず笑った。文句を言われた山崎も、思わず苦笑する。
まさか、そんな恨み言がここで暴露されるとは思いもしなかった。
「…それより、小百合ちゃん。三味線弾いてくれて有難う」
こほん、と咳払いをひとつして、山崎は小百合に微笑む。それに首を振った彼女は、柔らかく微笑み返してみせた。
それは歓迎会の時に垣間見せた笑顔と同じである。今まで見たことのないような柔和なそれに、山崎は胸が大きく跳ねるのを感じた。
(…やっぱり、小百合ちゃんは可愛くて綺麗なんだよなぁ)
心の奥底から沸き上がる感情に身を焦がし、けれどそれを認めたくない想いでいっぱいになる。
「サユリおねーちゃん、しゃみせんひいてくれて、ありがとう!」
「ふふ、こちらこそ。 聴いてくれて有難う、涼子ちゃん」
笑い合う二人は、なんとも微笑ましい。
これで、部屋の外から感じる他の隊士の妬み嫉みの混じった気配さえなければ完璧なのにな。と思う山崎だったが、しかしこの二人の側に居られる自分の立ち位置に、大いに満悦の表情を浮かべるのだった。
絢爛ちんとんしゃん(サユリおねーちゃん、もういっかい ひいて!)
(ふふふー、いいよぉ)
(二人とも、もうそろそろ夕飯なんだから早めに切り上げなよ?)
((はーい!))
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