夕焼けとに染まる(いち)

 


新撰組って、意外とお忙しいのですね。

そう思ったのは、奉公にきて随分と経った頃だった。



「…なんというか、ちょっと失礼っス」

「すっ、すみません!そうですよね、色々な方に口を聞いてもらってやっと奉公に来ている、まるでゴミ虫のような私なんかが大それた事を…」

「何言ってるんスか? でも、サチに暇そう見えたのなら、そうかもしれないっスねぇ…」

「いえ、そんな事は…!あぁぁ、でも最初に言ったのは私なのにすみません…」


最初に屯所を案内をしてくれた山崎さんとは、少しだけ話せるようになった。
とはいえ、不躾に話しすぎたと思う。

山崎さんは表情が読めない分、言葉がハッキリしている。
率直で、解りやすい。どうしても他人の顔色を窺ってしまう私からしたら、側にいても疲れにくいのだ。

(…といっても、山崎さんは私といて疲れるのかもしれないけど…)

山崎さんの顔を一瞥して、私は微かに息を吐いた。



「いやいや、それにしてもサチも屯所に慣れてきているようでホッとしたっス」

「え? …そ、そうですね、仕事も少しずつ流れが見えたり…見えなかったり…」

「どっちっスか」

「しっ、島田さんや尾関さんが優しいので、仕事がとてもやり易いです!お二人に助けてもらってばかりで…お二人が居ていただけるお陰でお仕事も頑張れます!」

「はぁ…。そうっスか、良かったっスね二人が居て」


ちょっとトゲのある言い方をされたような気がして必死に取り繕うように言えば、溜め息を吐かれてしまった。
なにやら呆れている感じだ。
え、そんな呆れられるような事を言っただろうか。
疑問に思って首を倒した私に、山崎さんが手を伸ばす。


「…え、うわっ」

「いいから、仕事戻るっス」

「な、何で頭を撫でるんですか…っ」

「ちょうどいい場所にある、サチの頭が悪いっス。それからサチは、ちょっと頭が悪いと思うっス」


そんな口振りに「ひどい…」とぼやく。
でも山崎さんは、なんだかちょっと楽しそうだ。


「ほら、サチ。もうそろそろ日が暮れるっスよ」

「え?」

「…、それ、早く取り込めって言ってるんスけど」


「はっ、す、すみません!」



指差された先にあるのは、風にたなびく洗濯物だ。
乾き具合もいい塩梅で、早く取り込まないと冷えてしまうだろう。


風が吹いて、敷布が翻る。
そんな風が気持ちよくて上を見上げれば少しずつ橙に染まっていく空が視界を埋めた。
その太陽の橙に照らされていく敷布はなんだかとっても綺麗だ。


「サチ、急ぐっスよー?」

「あっ、はい!すみません!」

「…そのすぐ謝る癖、どうにかならないっスか?」

「す…んんっ。いっ、急ぎますっ」


「すみません」を飲み込んで言えば、山崎さんは少し満足げに笑った。
あはは、とこちらに聞こえるぐらいに余りにもはっきり笑うものだから、私も思わず笑ってしまう。


「や、山崎さん」

「なんスか?」

「あの、待っててくださって、有難うございます!」


敷布を籠に詰めながら、私は振り向いて言った。
すると山崎さんは驚いたように肩を震わせてから、顔を背ける。

「いや、それほどの事はしてないっス…」

小さな声で言ったその言葉は、私の耳にもきちんと届いた。
それから、自然と視界に入った山崎さんの耳が赤く染まっているのも見えた。

…照れ屋さんですね。
そう言えば、きっと怒られてしまうだろうから言えないけれど。



「私、山崎さんが居てくださるのが、一番頑張れます」

「…っ、なに言ってんスか? と、取り込み終わったなら、さっさと仕事に戻るっスよ」

「ふふっ、はい!」



籠を持って山崎さんの方へ駆け寄れば、そのまま籠を奪われる。
持つっス、とぶっきらぼうに言ったその声にも、なんだか心がホッとして、気持ちが夕焼け空のように暖かい色に染まった気がした。



To be continued.

何だかんだでヒロインちゃんがお気に入りの山崎さん。

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