見上げれば(いち)

 



「おぅ、お疲れさん」


そんな声に、私は箸を止めた。

縁側に足を投げ出してお汁粉を食べながら休憩していた私は、瞬きを繰り返して声の主を見た。
そこにいたのは尾関さんで、彼も私に釣られたように瞬きをしてこちらを見ていた。


「おっ、お疲れ様です! …あっ、あの、尾関さんもお汁粉食べますか?」

「や、俺はいいよ。 お前、よくそんな甘いの食えるな…」

「へ?…え、えっと、美味しい…ですよ?」

「島田さんの作る料理が不味い訳ねぇだろ。ただ甘過ぎて俺には無理だって話」

「…その甘さが…良いと、言いますか…ええと…」


モニョモニョと煮え切らない私に、女ってそんなモンかねぇ、と欠伸をひとつ溢した尾関さん。
お茶をいれた彼は、私が腰掛けている隣に並んで座ってゆっくりとそれを啜る。

柔らかい陽光の差す、朗らかな縁側で休憩をとっている私の隣に座るという事は、何か私に用事があるのだろうか。
お汁粉を咀嚼して、はてと考える。



掃除は、一応終わっている。
買い物は、今日は重い物が多いからと島田さんが行ってくださっている。
洗濯…いや、さっき全てを干し終えたばかりで、まだまだ乾いているハズがない。
夕餉の用意には早すぎる。

では、一体…



「…はぁぁっ!」

「うおぉっ?! な、なんだよびっくりさせんなよな」

「きききき…気付いてしままま…っしまいました…! あの、すみません、あれ、その、私…!」


肩どころか身体全体を震わせて声をあげたら、尾関さんも同じく喫驚を露にした。
驚かせたのは申し訳無いけれども、今 私はそれどころではない。


「わ、私の仕事ぶりがあまりに不甲斐ないばかりに、叱責する為にいらしたんですよね。すみません、それなのに私ったらずっとお汁粉をもぐもぐと…!」

「は? ちょ、落ち着けよお前、別に俺はそういうつもりでは」

「いいえ、私のゴミ虫具合に耐えられなくなった尾関さんが私を怒るのは仕方ないことです、すみません!」


立ち上がらんとする勢いで捲し立てれば、お汁粉が大きく揺れた。
溢す!と一言叱咤されてお椀を奪われた私は、眉尻を下げたまま尾関さんを見つめる。

尾関さんはそんな私に、盛大に溜め息を吐いた。


消えそうなくらいに小さな声で謝れば、尾関さんはそれすらも耳聡く聞き付けて遮った。
謝るなと言われても、これはもう…私の性格なので仕方ないというか…。



「いいから、黙って話を聞け」

「は、…はい、すみません…」

「またそうやって謝る…。あのなぁ、俺は別に、サチを怒りに来た訳じゃねぇんだ。 ただお前に訊きたい事があってな」

「…き、訊きたい事?」


そう言って私の手にお椀を戻した尾関さんは、まあ食え、と口角を上げた。
もともと私が食べていた物なので、遠慮なくそれに箸を着ける。尾関さんはそんな私を見ながら、言葉を続けた。

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