第一印象はく色付く(いち)

 


私に『獣刃』の説明をしてくれたのは、私が女中として奉公にくる事を認めてくれた近藤局長と土方副長だった。



「これは公にしてはいけない事で、もし他言するようであれば…相応の処置を取らせてもらいますからな」

「…相応の…対処?」

「女だろうと、容赦なく斬る。覚悟しておけよ」



近藤局長の言葉の曖昧さに思わず反芻した私に、土方副長が簡略的に言ってのけた。
えっ、と短く声を発したけれど、局長は否定する事なく笑顔で頷く。
どうやら、本気らしい。


「でもな、サチくんは確かな筋からの紹介だから安心して話せたよ。君なら逃げるような事はないだろ?」

「…っ、す、すみません、勿論です…!」 


絞り出すように言えば、局長はこちらにまた一笑を投げ掛けてから腰をあげた。
続けて、副長も立ち上がって廊下側へ歩みを進める。

「山崎君、あとは頼んだ」

「はいっス」


そんな会話が聞こえて二人は出ていき、次に顔を見せたのは不思議なお面をつけた男の人だった。


「あ…、すみません、サチです。まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いしますっス。私は今回、サチを案内する山崎っス」


ペコリと頭を下げれば、山崎さんも深く頭を下げた。
案内をしてくれるという事は、この人も奉公に来ているのだろうか。
気になって訊ねれば、「詳しくは内緒っスけど、奉公ではないっス」と、人指し指を立てて意味ありげに笑った。



「さて、太陽が上を通り過ぎる前に行動っスよ。まずは屯所の中の案内っスかね、サチの部屋から行くっス」

「す、すみませんっ。案内、お願いします!」

「はは、とても元気なお方っスね〜」


嫌味のようなそれに、反射的に愛想笑いを返す。
すると山崎さんは、それに気付いたのか少し慌てた。


「気を悪くしたなら申し訳無いっス…!今のは嫌味とかではなくて、純粋に可愛らしい子だと思ってっスね…!」

「…かっ、かわ…っ?! すみません、えと…お、お世辞でも嬉しいです、すみません!」

「えっ、お世辞じゃな…いや、そうじゃなくて!そ、そんな謝らなくても…っ」


そんな山崎さんの言葉に、また「すみません」と溢す。
頬が熱くなっていくのを感じて手のひらで押さえれば、その指先は冷たくて気持ちが良かった。

あの、ええと、その…。
意味の持たない言葉を垂れ流し、もう一度「すみません」と口を動かした。
そんな唇に、山崎さんの指が押し当てられる。


「んぅっ?!」

「も、もう謝るの禁止っス…!」

「ふ、ふぁい…、すみませ…ふひゃっ!」

ついて出た「すみません」に、山崎さんの指がそのまま頬をつねった。
痛くはないが、それなりの衝撃はある。
瞬きを繰り返してお面を見つめれば、幾ばくかしてから山崎さんは顔を背けた。
すると当然山崎さんの耳が視界に入る。

何気なく見たそこは、微かに赤くなっていた。


(…照れてらっしゃる?)

あれ?なんて首を傾げれば、頬にあった指は離れていって、そのまま私の腕を掴んで引いた。
行くっスよ、とぶっきらぼうに言ったけれど、それでも赤い耳は見えているから、なんだか彼が可愛く思えて口許が緩む。

腕を掴んでいた山崎さんの手は自然と私の手のひらに下りた。
繋がれた手は温かくて、なんだか、これからの生活が楽しみに思えた。


To be continued.


ヒロインは小心者で謝り癖のある女の子。

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