妬んで話して、微笑んで
(いち)
その日、私は汗だくで仕事をしていた。
いつも作業が一段落つく前に尾関さんが迎えに来てしまうから、今日こそは終わらせて自分の成長を見せるのだ!
そう意気込んで挑んだ洗濯物の山は、いつもよりも早く切り崩されていっていた。
どうしても、他の方よりも仕事が遅くて迷惑をかけている。
そう感じたので、出来る事から少しずつ前に進んでいこうと思った次第である。
少しでも、サチはやれると思ってもらえたらいいな。
そんな事を思いながら、最後の一枚の敷布を竿に引っ掛けた。
「…よし!」
いつもより早く終わったので、庭の掃除も出来るはずだ!
もう一度意気込んで後ろを振り向けば、そこには腕を組んで佇む山崎さんの姿があった。
口内で山崎さんの名を呼ぶ。
彼が指で私を招いたので、私は空の洗濯籠を抱えてそちらに向かった。
「サチ、尾関サンが探してたっスよ」
「えっ、も、もうそんな時間…? すみません、わざわざ有難うございます…!」
「…二人で買い物に行くんスか?」
「は、はい、そうですね。 馴染のお店とか近道とか教えてもらったりして、よく二人で行ってます、けど…」
「…へえ、そうなんスか」
短く返した山崎さんは、少し何かを考えてから私の頭から足まで見て、それからまた視線を上に戻した。何なんだろう…。
彼が小さく溜め息を吐いたのは私には聞こえなかったのだけど、それでも肩を落としたのは見て取れる。
「…ちょっと、ここで待ってるっス」
「へ? は、はい!」
ここ、と指をさされたので、ビシッとその場所で動きを止める。
駆け出した山崎さんは、角を曲がる直前に踵(きびす)を返してこちらを向いた。
そして一言。
「確かに『ここ』とは言ったけど、座って待ってるっスよ。立ったまま待たせるのは、趣味じゃないっスから」
冷たいような温かいような、なんとも言えない言葉だ。
そのちょっとした優しさに、思わず頬が緩む。
私はまた「はい!」と弾かれたように答えて、目の前の廊下の端に腰をおろした。
それにしても、一体、どうしたというのだろう…。
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