どちらにも愛を
(ドレミで8のお題)
「私とパフェ、一体どっちが大事なのよ!!」
バンッと机を叩き、私は叫んだ。
目の前には、さっき運ばれて来たパフェを嬉しそうに突いていた銀ちゃん。
周りには、「やーねぇ痴話喧嘩?」とヒソヒソ喋るおばさん達。やーねぇ、と言ってる割には、随分と楽しそうだ。
私はそんなおばさんから銀ちゃんに顔を戻し、キッと睨んだ。
「ちょ、何事?!」
「パフェなんて甘いだけじゃない!」
「はぁ?! わ、わかったから、イイから座れ!!」
机越しに肩を押されて無理矢理座らせられる。
ひとつ息を吐いて、銀ちゃんは私を見た。
「…お前さ、昨日の夜テレビ見た?」
「いーえ、見てませんよ」
「いや、絶対見たから。アレ、昨日のドラマのラストシーンじゃん、『私と仕事のどっちが大事なのよ』って」
「ちっ、ばれたか」
「ばれたか、じゃねーよ」
スプーンの柄で、額を小突かれる。
それがまた、地味に痛い。
銀ちゃんは、お前なぁ、と小さく漏らすと、パフェの生クリームを掬って口に運んだ。
「大体な、『私と仕事どっちが大事なの』って、モノサシが違うモン持ってこられたって困るんだよ」
「ですよねェ」
「いやそう思うなら、尚更止めようよ。てかなんでメニュー開いて…」
「ですよねェ。あ、お姉さん、“まるごとバナナのデラックストロベリーチ長いぜパフェ”ひとつお願いしまーす」
銀ちゃんの言う事にメニューを見ながら適当に返して、側を通ったホール係のお姉さんにそう言った。
しかし銀ちゃんは、すかさず「キャンセルで!」と叫ぶ。
「あ?ケチだな…」
「久々の俺の奢りだからって、贅沢しないでくれる?!大体お前甘いの苦手じゃん!」
「じゃあこっちの“ドキドキ☆厚さ10cmのサーロインターネットって意外と怖いですよステーキ”なら良いの?」
まあ、ぶっちゃけ、分厚いお肉の方が嫌いだけど。
へらっと笑ってそう言うと、銀ちゃんはこめかみに指を当てて頭を振った。
(どうでもイイけど、この店のメニューの名前長くない?)
「あのさ、銀ちゃん」
「ん…何」
「銀ちゃん、私の事好き?」
「当たり前じゃんか」
「パフェより?」
「あ…、………当たり前、だろ」
「今の間は心の迷い?」
「いや、ホントすんません、マジすんません」
「まぁいいんだけどさ」
必死になって頭を下げていた銀ちゃんに、私はそう言った。ふわふわの髪の毛に、そっと指を伸ばす。
「へ、…イイの…?」
「うん、だから……」
私もパフェも、どちらも愛して?
(違うモノサシなら可能でしょう?)
どちらにも愛を店のオーナーは、きっとお通ファン。(笑)[ 14/20 ][*prev] [next#]
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