夏は君に来たる(藤堂平助さん)





「夏だ!海だ!砂浜だ!……ときたら、思い付くのは? はい、なまえ!」


「…すいかわり」

平助に訊ねられた私は、少しの間の後にそう答えた。
しかし平助はそれが気に喰わなかったようで、ものすごく嫌そうな顔をして私を見る。そして「はい?」とこれみよがしに聞き返した。


「……ダメかしら、すいかわり」

「えっ。て言うか…なまえ、スイカ好きだっけ?」


「うん、割るのが好き。 ──じゃなくて、夏・海・砂浜で何なのよ?」


割るのが、と言う返答に、平助が吹き出して笑う。それを額へのチョップで制して、今度は私が平助に訊ねた。
すると平助はにんまりと笑みを浮かべ


「水着だよ、み・ず・ぎっ! 夏で海!ときたら、それしか無いでしょー」


そう言った。
それにしてもこいつの変態じみた思考回路は、どうにかならないものか。

(あと笑い方もどうにかしたい)



「新しい水着、俺も一緒に買いに行くね」

「ヤダ平助の趣味の水着なんか着たくない」

「即答かよ! いいじゃん彼氏の意見を取り入れるぐらいしたって!」

「無理、趣味合わないし」


可愛いのとか嫌いなの、と冷ややかに言う。平助は、私の好きなスポーティーなものはお気に召さないようなのだ。

私の意見に平助は息を詰まらせる。
そして少し考えてから、声を荒げた。


「じゃ、じゃあスクール水着とかぁ!」



本気なのかは解らない。

けれど必死にそう叫んだ平助に、私は思わず足を振り上げた。





夏は君に来たる


(何年ぶりだろう、平助にかかと落としを食らわしたのは)





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