広がる安堵と不安(いち)



にゃあぁぁ……


正座をしている俺の足に擦り寄る黒猫。



人に対して警戒心を持たないそれは、松平のとっつぁんの横で畏まって正座をしていた、ひどく色っぽい笑みを湛えた青年の膝から歩み寄って来たモノだった。




とっつぁんが局長と副長に『異世界から来た女』の捜索を言い渡した数分後。
俺、山崎退は、とっつぁんから直々に極秘任務を言い渡された。


「いいか、山崎。この任務については他言無用だ」

「…局長や副長にも、ですか?」

「ああ、誰にも言うな。 山崎、テメェは異世界の女が見付かり次第、そいつの行動を全て見張っておけ。」



いいな?と問い掛けるとっつぁんの圧力に、俺は小さく御意の返事をもらす。
そろりととっつぁんの横に目配せすれば、そこに座っていた綺麗な青年から、花の咲き綻ぶような笑顔が送られた。


白銀色の髪に、紅い瞳。
少し浅黒い肌には、その二つがすごく綺麗に栄える。




「……とっつぁん、そちらの方は…?」

「ん? ああ、異世界の女を探してほしいと依頼された大和屋鈴殿で…」

「松平殿、後は私から説明を致します故、その方と二人きりにさせて頂いても宜しいですか? 松平殿も、お忙しい身でしょうし、私も一人で大丈夫ですので」


にこりと、大和屋さんは微笑んだ。
とっつぁんの言葉を遮ったその笑みと言葉は、軽く見えるがいやに重々しい。


「…では…、失礼しますかな」

サングラスの向こうの双眸には、少し困惑の色が見える。

とっつぁんはとっつぁんで、大和屋さんの側を離れる訳にはいかないのだろう。
しかし出ていって良いという大和屋さんからの申し付けに、とっつぁんは断る事が出来ないのだ。

頭を下げて廊下に消えたとっつぁんの厳つい顔を見送り、俺は改めて大和屋さんの紅い眼を見詰めた。


部屋の中を気ままに歩き回っていた猫が、にゃあぁと高い声をあげる。
二人きりの空間は、とてもピリピリとして居心地の良い物ではなかった。

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