歯車が回る
(いち)
小百合の事が、大事だと気付いた。
大切にしたいと、そう思った。
そんな矢先だ。
小百合が真選組で働くなんて言い出したのは。
「銀さん、流石に言い過ぎですよ」
「……わーってるよ、そんなん」
子供ですね、と息を漏らした新八の頭にげんこつを落とす。図星だったからだ。
図星だから攻撃って、それこそガキっぽいかもしれない。
自己嫌悪で、思わず溜め息を漏らした。
「いたた……、とにかく、小百合さんが帰って来たら、ちゃんと謝ってくださいよ?」
「解ってる、小百合の好きにさせてやるよ」
そう言うと、新八は安心した様に笑った。
大和屋鈴から受けた仕事は難航していた。
ついでに小百合の依頼も放置に近い。
手掛かりのないまま何も出来ずに今日を過ごすつもりでいたら、インターホンの音が空気を揺らした。
「お登勢さんですかね?」
「かもしんねぇな……。新八、こっそり行って、様子見てこい」
「いや、…いやいやいや!銀さんがちゃんと家賃を払えば良い話じゃないですか!」
俺の要求に冷静なツッコミを入れた新八は、そのままいつものように小言が始めた。
的確な所を突くそれは、正しく母ちゃんの説教の外ならない。
「…逃げるしか道はねぇな。」
「銀ちゃん逃げちゃ駄目アル!逃げたら追い掛けられるに決まってるネ、そしたらそれこそ怖いヨ。」
「そりゃわかってんだけどさぁ。なんつーかこう、まだ心の準備ついてなーい、みたいな」
「銀ちゃんは毎日準備ついてないから大丈夫アル。さあ前に進むヨロシ、夜明けは近いネ!」
呟いたら、今度は神楽が反応を示した。
てっきり自分も逃げると言い出すかと思いきや、どうやら自分が逃げる為に俺を餌にする気らしい。
家主に盾突いた二人の後押しに負け、俺は渋々立ち上がる。
畜生、此処は俺ん家だっつーの。
あ、家主だから俺がやるのか…そうか…。
ぶつくさ言いながら、デスクから玄関先へ歩みを進める。すると居間を出る前に、玄関が開く音が耳に届いた。
「てめ、いくらババァでも勝手…に、って、……お前…」
開け放たれたドアの先。
にゃおん、と小さく鳴いた声が空気を揺らした。
「…大和屋、鈴……」
「こんにちは、坂田さん」
一度しか会ってないが、間違うはずがない。
浅黒い肌と白銀の髪の毛。妖艶な笑みをたたえ、黒い服を身に纏った青年。
傍らにいた小さい子供は居なかったが、代わりというのか、一匹の黒猫が大人しく座っていた。
[ 42/129 ][*prev] [next#]
[back]