歯車が回る
(に)
リビングのソファ。
そこに座る鈴の艶やかさに、思わず目を反らす。ちらりと新八を見れば、どうやら俺と同じ気持ちらしく、苦笑しながら俺を見た。
神楽はというと、どうやら鈴よりも黒猫が気になるようだ。じーっと見つめて、時折にんまりと笑みを浮かべている。
「…それで、今日はどういった用件で…?」
「おや、来てはいけませんでしたか? 折角依頼の手掛かりを、と思いましたのに」
少ししょんぼりとして眉尻を下ろすと、鈴は隣に座っている黒猫を撫でた。
刹那、応えるようにニャアと鳴く。神楽が楽しそうに笑ったのは、見なかった事にしよう。
「手掛かり、貰えるなら貰った方がいいんじゃないですか? 行き詰まってるんでしょ、銀さん」
「確かに…そうなんだよなぁ……」
耳打ちした新八に、俺も小声で返す。
この男に縋るのはなんだか癪なのだが、致し方ない
事だろう。
しゃあないか、と呟くと、鈴は聞こえているのかにこりと笑った。
体を真っ直ぐ向ければ、待ってましたと言わんばかりにスッと三本の指が立てられる。
「では、情報を三つほど。」
まずひとつ。
そう言って、人差し指を立てる。
笑みを絶やさぬまま、その指をゆっくりと新八に向けた。
「……な、なんですか?」
「姫の正体に一番近いのは、貴方。気付こうとすれば気付けますよ」
そんな鈴の言葉に目を見張り、新八は眉根をよせる。銀さん、と小さく呼んで、俺の裾をくいと引いた。
(縋るな、助けるなんて無理だから)
「……気付こうとすれば、な。わかった、二つ目はなんだ?」
「二つ目は、姓。苗字は『円』だということ。 そして三つ目……」
そこまでいうと鈴は家の中をぐるりと見回して、猫の顎を撫でた。
ごろごろと喉を鳴らした猫が、軽やかに床に下りて部屋中を歩き回る。
一通り歩くと、黒猫は高らかに鳴いた。
「居候のあの方は、出掛けてらっしゃるんですね」
猫の行動を首ごと追って見た俺達は、鈴の突然の言葉に肩を揺らした。
居候、小百合の事だ。
そう気付き、俺はああと短く返す。
それより三つ目の情報はなんだ。
視線で促すと、鈴はそれはそれは楽しそうにニィッと妖しく笑んだ。
[ 43/129 ][*prev] [next#]
[back]