冷たい温かさ
(いち)
わたくし小百合は、新選組の女中さんに憧れていました。
昨日、名前は違えど『真選組』の女中さんをしてほしいと、局長の勲ちゃんから直々に言われ、そして今日、女中の仕事が出来ないと見做された私は、副長のトシちゃんに女中の代わりに雑用をやれと言われました。
ああ悲しきかな!
小百合は女中さんやりたかったのに!
…なーんて。
そんな文句を言っても事実は変わらないだろうから、私は仕方なくさがるんと雑用やります。
頑張ります!
あれ? でも、何か忘れてるような……
「じゃあ、今日はもう帰っていいよ。」
お昼ご飯が終わって、ちまちまとした仕事が片付いた後、さがるんはそう言って私の肩を叩いた。
「初仕事お疲れ様でした。はい、お茶どうぞ」
「わ、有難う!」
にっこり笑って差し出された湯飲みを受け取って、コクンと喉を潤す。
それにしても、さがるんの変わりようが凄い。昨日は自信たっぷりの恐い人だったのに、今日はなんだか、拍子抜けするくらいに優しくて癒される。
(こっちまでふにゃーってなるなぁ)
ふにゃー。
そんな感じで笑えば、さがるんもそれに倣って柔らかい笑みを浮かべた。うーん、癒し系。
「とりあえず、今日はこれでおしまい。 でも明日からは、朝から夕方まで手伝ってもらうからね。」
「うんわかった! じゃあ明日も今日と同じくらいに来るね」
今の時刻は、大体昼八つ過ぎ。此処の世界では、午後三時というらしい。
太陽は高く、空は晴々と青く広がっている。
さがるんに手を振って屯所を出ると、私は早めの帰宅に浮足立っていた。
(そうだ、探険しよう!)
思い立ったら、即実行!!
私は昨日も今日も通らなかった道に、勇んで駆け出した。迷子になるかもしれないけれど、そんな不安より目の前の楽しそうな事の方が大事なのです、そうなのです。
キョロキョロと見渡しながら、賑やかな通りを歩く。
京都と変わらぬその町並みに懐かしさを感じながらふと空を見れば、そこには高い高い不思議な建物。空飛ぶからくりがそこへ集まるのを見ると、あの大きな物は親玉みたいなものなのかもしれない。
それにしても、なんか…
「そぐわない、なぁ。」
ぽつりと呟く。
こんな和やかな町なのに、何故からくりがどっかりと鎮座してるのか。それが不思議でならない。
(みんなは、嫌じゃないの?)
私はよそ者だから、そう思うだけなのかな。考えて、私は深く息を吐いた。
私一人が考えた所で、何にも変わらないと思ったのだ。
とにかく今は、楽しいモノを探す探険に専念しよう。
いつの間にか止めていた足を動かして、私は前に進んだ。
[ 39/129 ][*prev] [next#]
[back]