冷たい温かさ(に)



楽しいモノ探し。
そう銘を打ったが、なかなか楽しいモノは見付からなかった。

物凄い轟音を立てている大きな建物や、透明な壁で中が丸見えの不思議な商店。どちらも戸が無くて、近付いた瞬間に一部の壁が開くという仕掛けは、まるでからくり屋敷のようだった。


がちゃがちゃと色とりどりのからくりの前に座っているおじさんや、壁の向こうで立ったまま読み物を読む女の人。
あんな居づらい場所で何をしてるのか解らないけど、きっとあの人達は『楽しい』から居られるんだろう。

しかしソレが何なんだか理解し得ない私には、全くもって楽しくない。



「……もう、帰ろっかなぁ」


ふて腐れたように呟いて、私はとぼとぼと歩く。帰り道わかんないけど、と悲しくなる言葉は咥内で飲み込んで、ドコに行くでもなくあてのないまま歩み続けると、不思議な広場に出た。

石造りの小さな門構え。
そこを過ぎると、子供達がきゃあきゃあと遊んでいる。

(……空き地?)


それにしては、広すぎるか。


ん〜と首を傾げて、とりあえず中を回って見ようと歩き出す。
歩き通しだったので休憩でもしたい、と腰掛けられそうな広場の端に向かうと、ふと擦れ違った行脚僧っぽい人に声をかけられた。



「いひゃああ…ッ!」

「そ、そんなに驚かなくても……。それよりお嬢さん、何でこんな所をウロウロしているんだ?」

「何で…って…、んん?」



笠を被ったお兄さんの顔は、こちらからは見えない。
けれど、肩に掛かる黒い髪の毛とその声には覚えがある。


ん…もしかして。



「かっちゃんだぁ!」

「…かっちゃんじゃない、桂だ」

「うあ、ごめんなさい。でも、桂さんに会えて嬉しい!」


にっこり笑って、私は桂さんの手を取った。そしてその場でくるんと回る。嬉しいを体全体で表現すべく小躍り状態だ。
桂さんも、そんな私にやんわりとした笑みを浮かべる。


「な、何だか小百合殿は前回よりもグレードアップしているな。」

「へ、ぐれぇど?」

「ああ、何だか強力になっているぞ。何か良い事でもあったのか?」



回る私を力ずくで止めて、桂さんが訊ねた。笑っていた、というよりも、苦笑に近いのかもしれない。


「良い、コト? んっと、えーっとねぇ……あ!真選組のお手伝い出来るって!」

「む、真選組…?」

「そうなの! 小百合、前から新選組の女中さんやりたかったの。そしたら、真選組でお手伝いやってくれって、すごく嬉しくて!」


ぱあっと笑う私とは対極的に、桂さんの顔が段々と曇っていく。
何だかわからないけれど、それは絶句しているような表情で、桂さんは息を飲んで笠を目深に被った。



「……小百合殿。小百合殿は、本当に俺を知らないのか?」

「へ? 知らないって……桂さんは、桂さんだよ。」

「そうでなく…、…いや、何もないのなら、それで良いのだ。悪かったな、今の事は忘れてくれ」


笠の奥の目は見えない。
桂さんの表情を知る事が出来るのは声ただ一つで、それはどことなく暗い。
聞く私が、悲しくなるほどに、暗い。

何故そんな表情になってしまったのか、私にはわからなかった。

しかし、それが私の所為なんだとしたら


(哀しくて、ならない)

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