それは銀色の
(いち)
目の前には、最近新ちゃんと二人で見に行った見世物屋に居ても不思議ではないぐらいに大きな謎の犬。
そのまま視線を左に滑らせれば見える、知らない顔。
新ちゃんよりもずっと大きい、見覚えの全くない銀髪。
でも、犬よりは怖くない…かも?
とりあえず、一番最初に思ったのは。
「人間が居てよかったぁぁ!」
思わず駆け寄って、背後に回る。
勿論、巨大な犬に対する盾にする為だ。
「ちょっ、お姉さん何者? いきなり人の背後を取るのはなんの挨拶!? てか早くアイス仕舞わせてくんない!!??」
よく分からない事を叫んで私の前から退こうとするその人の肩を力いっぱい掴んで、私は「もう!」と声を張った。
「おじさん、ちょっと静かにしててよ!煩くしたら犬が来ちゃうから!」
「ハァ?! 銀さんまだ若いから!!おじさんじゃないから!!つか、さっきのテメェの泣き声のが煩かったから!!!」
「あ、そういえば、ここドコ?」
「人の話を聞けェェェ!!!!」
新ちゃんのツッコミとは違う過激なツッコミに、私は思わずキョトンとする。
話を聞けと言われても、私はちゃんと話聞いているからこれ以上聞きようがない。
でも、怒られたからには、謝っておこう。一応。
「申し訳ありませんでした、おじさん」
「いやそんな畏まって謝られても困るんだけど…てかまたオジサンっつったなコノヤロー。お姉さん何者よ?」
「んと……若者?」
「それは遠回しに俺をおじさんと言ってんのかコラ」
「大丈夫だよおじさん、白髪でもふさふさだから!」
「白髪じゃなくて銀髪だから!白髪じゃ銀さんじゃなくて白さんに改名の危機じゃん!!!」
「で、白さん、ここはドコなの?」
「銀さんだっつってんだろーが!!」
なんか、喧しい人だなぁ。
そんなやり取りも、おじさんの息切れによってしばしの中断。
そりゃあそうだよね、首をギリギリまで曲げて後ろを振り返りながら叫ぶなんて、普通やらないし。
「…ね、ここ、本当にドコなの?」
そう訊ねながら、私は未だ押さえたままだった、白さんもとい銀さんの肩から手を離した。
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