それは銀色の
(に)
「私ね、気付いたらここに居たの」
「…は?」
「は?って言われても、私はいつの間にかここに居たの。寧ろ、帰り方を教えてほしい位なのよ」
腰に手をあて、私はふん、と胸を張る。
所謂、踏ん反り返るという、そんな形だ。
「……あー、その、なんだ。…イタい子なんだな、君は」
「……小百合、別にどこも痛いトコないよ?」
「うんうん、ゴメン。イタい子にはっきりイタいって言ったら可哀相だからやめてあげる。あーイタいイタい」
ぽんぽん、と頭を軽く叩いてそう言った。
(なんかすっごい失礼な事を軽々言われたような気がする!)
私は思わずムッと頬を膨らませる。
すると頭を叩いたソレが、再度頭にぽんっと衝撃を与えた。
「まだ、名乗ってなかったよな。俺は坂田銀時、銀さんって呼んでくれて良いから。よろしく『小百合』チャン」
「──あれ、私、自己紹介した?」
「や、自分の事小百合って呼んでたから、俺が勝手にそう思っただけだけど…違ったか?」
「ん…ううん…違わないよ? でもびっくりしたの。初対面で名前で呼ばれたの初めて……じゃないや、新ちゃんが初めてだった」
新ちゃんは、初めて会話を交わした時からずっと優しい声で「小百合」って呼んでくれるの。
なんだかそれが暖かくて、嫌だなんて思った事、一度だってないんだから。
新ちゃんの事を考えたらなんだか嬉しくなっちゃって、私はへらっと頬を緩めた。
「何笑ってんの、気持ち悪ィ」
「へへ、えへへへへッ」
綻んだ顔はそう簡単には戻らない。
私は口許が緩んだまんま、銀さんを見た。
怪訝そうな表情が見えるけれど、そんなのどうだっていい。
「あのねー、新ちゃんは小百合のとぉっても大切なヒトでねー」
「いや惚気だったら聞かないよ?」
「私が好きって思ってるのとおんなじぐらい、新ちゃんも私を好きなの!えへへへ〜ッ」
「だから惚気は聞かないって…てかお前うざいから!なにそのうざい惚気話!寄るなキモい!」
銀さんが何を言おうと、私の口は留まる所を知らない。
瞬く間にうんざり顔になる銀さんなんか気にかけず、私はまたにこりと笑った。
そして気付く。
「そーいえば、ここがドコなのか教えてもらってないんだけど」
銀さんはどうでも良さそうに、私の声を聞いていた。
そして投げ掛けた質問に、小さく呟く。
「あー…イタい」
「銀さんどっかケガしたの?」
「そうじゃなくて、お前がイタい」
何だか心底そう思ってるらしく、銀さんは深く溜め息を吐いた。
「………銀さん。もしよかったらでいいんだけどさ、銀時ちゃんって呼んでもいい?」
「小百合ちゃん、話進める気ある? てか銀時ちゃんは止めて、せめて銀ちゃんにしてくんない?」
「じゃあ銀ちゃんね。 あのね、小百合、話進める気はあるよ? でもねーなんか話が前後しちゃうのは、私のクセって言うかねぇ」
「ようするに、馬鹿か」
「う……小百合、ばかかなぁ…」
む、と頬を膨らます。
すると銀さん…もとい銀ちゃんが私の頭を軽く撫でた。
「なぁに」
「とりあえず、質問に答えてやるよ。 此処は、江戸のかぶき町だ」
その答えに、私はキョトンと目を丸くする。
そりゃそうだ、私はついさっきまで『京都』に居たんだもん。
それが、何がすごくて江戸に流れ着いたっていうんだろう。
「京都から江戸まで、早い籠でも何日もかかるのに……」
じゃあ、一体どうして私がここに居るんだろう。籠に乗った記憶も、何日も寝ていた記憶はない。
ただ気が付いたら、この家の狭い寝室で寝ていたんだ。
「とりあえずな小百合、お前が此処に来た理由を……」
「銀ちゃーん、ただいまアルー!!」
考え込む私の意識をこちらに呼び寄せようと側にあった不思議な長椅子に腰かけようとした銀ちゃんに、突然赤い服を着た女の子が突っ込んだ。
その服は京都では見たことのない舶来品みたいな不思議な服で、髪の毛も見たことないぐらいに明るい、橙色。
その様子に驚いて黙って見ていると、女の子に次いで眼鏡をかけた男の子が入ってくる。
その男の子は私を知っているらしく、私の顔を見てにこりと笑った。
知らない事だらけの変な世界に、希望の光が変な風に差し込んだ気がした。
To be continued.
神楽はきっと、銀さんに抱きついたんじゃなくタックルしただけ。[ 6/129 ][*prev] [next#]
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