狭い空の中(いち)


「おーい小百合ー、迎えに来やしたぜィ」


がらがらっと戸が空き、総ちゃんの声が万事屋に響く。
少し待つと、昨日と同じ黒い西洋服姿の総ちゃんがひょこっと顔を出した。


「ん、待って、ご飯 途中…!」

「ああ小百合さんっ、ご飯粒落ちましたよ!」

「はわ、勿体ないッ。総ちゃんちょっと待ってね、すぐ食べ終わるから…んッ、ご馳走様でした!」

「大丈夫ヨ小百合。あんな奴待たせとけば良いネ。」


神楽ちゃんがそう言ったのに思わず笑い、自分が食べた分を洗い場に片す。
ごめんね、と総ちゃんを見れば、彼はとても柔らかく笑いかけてくれた。



 
「早く屯所に行かねェと、仕事の件がなくなりやすぜ? 小百合、女中やりたがってたじゃねェか」

「うぁ、今行くから待っ…ぐむ」

「あー……その事なんだけど、さ」



急に後ろから口を塞がれ、上を見れば、銀色のくるくるとした髪の毛が視界の隅にちらつく。
どうやら、後ろに立っているのは銀ちゃんらしい。




「お前ら真選組に、小百合は渡さないから。 つか寧ろ、小百合はこのまま万事屋に永久就職のつもりだから、女中の話は無しって事で」

「あん? 何バカ言ってんでさァ、お上に逆らうなって教わらなかったんですかィ?」

「いくらお上でも、小百合連れてかれたら俺んトコの営業妨害なんだよ。」


くぐもった声しか出ないまま、私は銀ちゃんの言葉を聞くしかない。

(えいぎょう、ぼうがい?)

あ、そうか。私万事屋に依頼してるんだっけ。

すっかり忘れていた私は、んー、と唸って開放をねだった。私が異世界から来ていると解った今、万事屋への依頼は破棄するしかないのだ。
この世界の京都に私の家はないのだから、きっとこの万事屋の皆には解決出来ないだろう。だから依頼の件は無しで、と謝ろうと思ったのに、口から手を離してくれた銀ちゃんは、「小百合は」と私の肩を掴んだ。



「小百合は、あんな奴らのトコで働きたい訳?」

「へ…? う、うん、女中さんやりたいよ?」

「イイじゃん真選組なんか行かなくても。新八と家で飯作って待っててくれりゃ、それで女中っぽいだろ」

「やっ、やだよそんなのー!だって小百合、ずっと前から新選組の女中さんしたかったんだもん! だから小百合は、真選組で女中さんやりたいの!」

「ヤじゃねぇよ、このワガママ娘が!餓鬼かお前は! とにかく何の理由も無しに、いきなり真選組に勤めるなんて銀さん許しません!」



銀ちゃんはそう言うと、私の頬を手の平で包むようにぺちりと叩いた。
微かな痛みと、触れる銀ちゃんの温かさが頬に宿る。


「り、理由なら、ちゃんとあるもん…。」


私は、異世界から喚ばれて。
喚んだ人が、真選組に居ろって言ったから、そこに居なくちゃいけなくて。

だから、私は女中さんで。

新選組の女中さんだったあゆ姉とおんなじ、私の憧れの女中さんで。


でもそれは、銀ちゃん達に話したら面倒だって。

(トシちゃんが、ゆったから。)




「でもね、訳は言えない、の。」



頬に宛てがわれた温かい手の平を思い切り振り払い、私は総ちゃんの手を取った。突然の事に、総ちゃんも銀ちゃんも目を丸くする。

ごめんなさい、と呟いて、私はそこから逃げるように総ちゃんの手を引いて走り出した。

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