うやむやな純真
(いち)
「じゃあ明日の朝から、女中としてよろしくな?」
近藤さんは、子供をあやすように優しく言った。
大人しく撫でられている小百合は、うんわかった、と元気に返事をする。
「面倒だから、『異世界』の事は人に話すなよ。勿論万事屋の奴らにもだ」
土方さんも小百合の頭に手を伸ばし、くしゃっと軽く撫でた。
小百合はこれも大人しく受け入れ、はぁい、と笑う。
「じゃ、さっさと行きやすゼ」
そう言って小百合に手を差し延べて言ったのは、俺。
しかし小百合は不満そうに頬を膨らませ、土方さんの後ろに身を隠した。
ああ、随分と嫌われてらァ。
「おい…帰るんじゃないのか」
「トシちゃんとじゃダメなの?」
「ごめんな、小百合ちゃん。トシはこれから俺と仕事があるから無理なんだ」
「えーっ、じゃあ勲ちゃんもダメなの…?!」
ますます落ち込む小百合は、近藤さんの隊服の裾を掴んで、唇を尖らせた。
むー……と唸り、自分の着物の袂(たもと)に腕を引っ込め口元で遊ぶ。
その姿は、子供さながらだ。
俺と歳が近い感じなのに、その仕草が板につくのは可愛いから、か。
俺だってその頭を撫でてみたいと思うのに、あんなに拒絶されてたら踏ん切りがつく訳もない。打たれ弱いその性格を、もっと改善するのは難しいだろうか。
「小百合はなんで俺が嫌なんでさァ。嫌われる様な事は、まだしてやせんゼ?」
「まだって事は、いつかするんだ!沖田君ヤダ!」
「おっと、思わず本音が出ちまった」
「うー…他の人がいいよトシちゃん、沖田君苛めっ子なんだもん…」
小百合は膨れっ面のまま俺から目を反らし、ぎゅっと土方さんの服を引いた。
苛めたいのは本音だけれど、本気で虐げたい訳ではないのを理解してもらいたい。
なんでェ…心なしか顔が赤くなってらァ、土方コノヤローの奴。
(照れちゃってまぁ…、ウブですねィ。)
「総悟が嫌なら…、じゃあ山崎と帰るか?」
「や、ヤダ!」
土方さんの提案に、即答で嫌がる小百合。
お、もしかして俺より山崎の方が嫌われてるんじゃねェか?
見えないように小さくガッツポーズをし、観念する小百合の顔を見つめた。
「うぅ……じゃあ沖田君でも良いよ…。行こう。」
小さな彼女はそう言って、俺の指を取る。軽く絡められた小百合の手をちゃんと握り返し、俺はじゃ、と土方さん達に手を振った。
渋々ではあったけど、二人きりで帰れるなんて嬉しい。
顔に出さないように、俺は心の中でそう思った。
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