己の身の上
(いち)
なんで私は、見知らぬ場所に放り込まれやすいんだろう。
「改めて、初めましてこんにちは。僕、監察の山崎退っていいます」
「さが、る、さん」
「うん、よろしくね」
「よ…よろしく…」
目の前にはさっきの沖田君と同じような黒い恰好をした男の子、退クン。
いや、同じような…というか、沖田君の服の方が装飾豪華だったかもしれないけど。
沖田に続いて、今度は山崎。
さっきから知り合いに似た名前が多いのは、気の所為なんかじゃないハズだ。
案内された先は、さっきの寝室より少し狭い広間だった。
用意されたお茶からはゆらゆらと湯気があがって、その横にはおまんじゅうがひとつ。
……食べてもいいかな。
食欲に心が揺らいだけれど、そこは頭を振ってぐっと我慢だ。餌付けされてる場合じゃないだろう。
退君はそんな私を見てクスクスと笑った。
可愛らしい、気がするけど、それと同時に裏がある気もしてならない。
「んと、何で新八ちゃんを返しちゃったんですか?」
「何故って…用があるのは君だけだからだよ」
「…私だけ、……ですか。 …えぇと……んと、」
「落ち着いて考えてイイよ」
正座をしたままの爪先を遊ばせて、私は身体を揺らした。
考え事をすると、どうにもこう、所在がなくなる。
ああ、新ちゃんがいたら、くっついて考えるのになぁ。
右、左、と繰り返し、再度右に傾いた時、私は首を傾いで訊ねる。
「んと……さがるん?」
私のその発言を機に訪れる沈黙。
どうやら、さがるん(仮)は驚いているようだ。
今まで急にあだ名で呼んだ場合、殆どの人が聞き返してきたのだけれど、どうやらこの人は今までの人達とは違うらしい。
目を丸くして、私を見つめている。
「どうしたの、さがりん」
「…っ?! 変わってない? さっきと呼び方変わってない?」
「どっちが良いかなぁ、『さがるん』と『さがりん』」
真顔で訊くと、さがるん(仮)は呆れたように頭を振った。間もなく、どっちでも良いよ…と小さく笑う声が耳に届く。
「えへー。意外と優しいねぇ、さがるん」
「あ、そっちに決定なんだ」
えへへ、と笑う私に、さがるんは笑い返した。…渇いた笑い、と言うべきなのかもしれないけど。
そんな会話をしていると、さっきまでさがるんに感じてた、こわーい感じはあんまりしなくなっていた。
「あー…それでね、小百合さん。何故君だけ残したかっていうと」
「新選組の話じゃないの?」
「あぁうん、そうなんだけど。そうじゃなくてだね。」
やりにくいなぁ、とさがるんは溜息を吐いた。
勝手に引き止めておいて、やりにくいとはどう考えても酷い言い分な気がするが、この際それはどうでもいい。
そういえば喉乾いてきたからお茶だけでも飲もうかな、なんて私はそっちの方が大事になってきている。
「単刀直入にいうと、僕ら真選組は君を保護したいと思ってる」
「はぁ…、………はぁ?」
真面目な顔で私を見るさがるん。
どうやら本気らしい。
けど、保護したいって……何で?
というか、新選組の話はいずこへ行ったのでしょうか?
目の前のおまんじゅう、もといお茶に手を伸ばす頃合いを完全に見失ってしまった。
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