その時の私(いち)

 
銀ちゃんに貰ったおまんじゅうがひとつ。

そのおまんじゅうを持って、私は奥の和室に足を運んだ。

私が寝かされていた、あの狭い寝室である。
寝室という括りにするのはおかしいのかもしれない。確かに布団はあるけれど、机だって普通に置いてあるんだもの。


その机におまんじゅうを乗せて、私はにっこり口角を上げた。

お客さんが来たんだったらしょうがない。
私は一人で休憩を、しっかり満喫しようじゃないか!


…とはいえ。



「休憩を一人で満喫するのって、至難の技じゃない?」

ねぇ、と誰も居ない部屋の空気に呼び掛ける。
当然、返事は無い。
というか、あったら困るのだけれど。


「んんー…どうしようかなぁ。おまんじゅう食べようかなぁ。 でも、この大きさじゃ一口で食べようと思えば、食べれちゃうしなぁ…。」


私は和室の真ん中に座布団を置き、畳の上におまんじゅうを置いて正座してじぃっと見つめた。
そして口を尖らせてうなる。

一口で食べれちゃう、と言っても、このおまんじゅうが特別小さい訳ではなく、私が奇特なだけである。
普通の大きさのおまんじゅうだったら一口で食べきれるぐらい、大口を開けられる……という、自慢にもならない自慢なんだけども。


(「女の子なんだからやめなサイ」って、よく新ちゃんに怒られたっけな…)


やめなさいって言われてたけど、だけどそのままおまんじゅうくれてたんだから新ちゃんって本当に優しいなぁ。
思い出して少し笑って、目の前のおまんじゅうに意識を戻す。
うんうん、食べてほっこりしよう。


「…そういえばこのおまんじゅう、なんで何かに包まってるんだろ?」


そう首をかしげたその時、微かに日の光を取り込んでいた障子が不自然に鳴った。
それと同時に、何かが転がり込む。

それは小さなモノとか、そういうモノじゃなくて、……なんと言うか、白い塊、だった。

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