届かない想い
(いち)
「──と言うことで、こっちにある真選組の副長ってのが小百合を狙ってたんだよネ」
小百合の手を握りながら、永倉はそう言った。
小百合は首に怪我をしたらしく、新八に手当てをされている。
俺に説明している永倉を見ずに、少女は遠い目をしたまま呟いた。
「…トシちゃん、どうしたんだろう」
さっき己の命を脅かした相手にかける言葉にしては、優しすぎるそれ。
俺も眉根にシワを寄せたけれど、それよりも永倉の方が怒りのゲージは上のようだ。
「まだ言ってんの? 向こうが操られていたにしろ、小百合が危ない目にあってるのは事実なんだから、危機感持てって言ってんじゃん」
「…心配してるんだもん。危機感持ってたって、心配するくらいはするもん…」
頭を垂らして小さな声で言う小百合に、さっきまで苛立っていた永倉は眉をハの字におろす。
困ったように眉尻を落とせば、小百合は眉間にシワを寄せて顔を歪めた。
「聞いて、小百合。 …俺は、小百合が殺されるなんて嫌だ」
「…うん」
「小百合が他人を心配するのを止めたい訳じゃない。 ただ、他人を心配しすぎた所為で小百合が殺されたら……」
そこまで言って、永倉は言い淀んだ。
しっかりと小百合の手を握る永倉。けれど小百合はしかめっ面のままだ。
きっと、小百合のその表情を見て言葉を紡ぐのを止めたのだろう。
小百合は空いた手を胸に重ねて、襟の辺りを握りしめた。
苦しいのか、眉間に寄せられたシワは濃くなっていく。
思案を巡らせた俺と同じことを考えていたのか、永倉も首を傾げて小百合を覗いた。
名前を呼べば、少女は胸を押さえたまま永倉の肩に身を投げ出し、そこから滑るように床へとダイブする。
「…っ! あっぶねぇ…!小百合、大丈夫?!」
すんでのところで小百合の体を支えた永倉に、黒髪が縋る。
熱っぽい吐息を溢して、少女は目を固く閉じた。
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