届かない想い
(に)
胸の印が熱を持つ。
熱い、痛い、むず痒い、苦しい。色んな感覚がぐちゃぐちゃに混ざって、体の中で訳のわからない状態になっている。
新ちゃんが私の名前を呼ぶ。
その声が聞こえているのに、どうしても返事はできない。
声が、出ない…。
ごめんね、大事な話をしていたのに。
ごめんね、心配してくれているのに。
浅くなる呼吸の所為で、頭がうまく働けない。
目の前にいる新ちゃんに縋りつく。
背中に回された新ちゃんの手が優しくて、私は場違いながらも心が暖かくなった。
ほわほわと意識が宙に浮かぶのは、新ちゃんに抱き締められているからなのかな。
それとも、あの声に惑わされている所為?
意識の端っこで、前にも聞いた謎の声が響く。
小百合、小百合。
一体どこで、どうしているの。
そう訊ねる声は、前と同じだ。
「……し…ちゃ…!」
声を振り絞って、新ちゃんの服を握り締める。
どうしたの、と私を覗く新ちゃんの声は、頭に響く声に重なる。
(…やだ、やだやだやだ…っ!)
誰が、話してるの?
誰と、話してるの?
ねぇ、本当に…あなたは誰なの?
私を必要だと言ったあの声は、聞き覚えなんかない。
それでもなんだか懐かしく感じて、感情をぐるぐるとかき混ぜていく。
苦しすぎて唇を噛み締める。
血が滲んだらしく、胸の痛みに混じって唇が微かに熱くなった。
『小百合』
「小百合!」
『待っておいで、すぐに迎えに行くから』
「小百合、落ち着いて…小百合…っ」
『ほら、小百合…』
「小百合…あぁ、もう…!」
現実が、幻想が、近くで、遠くで、呼び止めるように、突き動かすように、私を、…私を。
(…たすけて)
口の中で呟いて、私はどろどろと眠りの狭間に落ちていった。
To be continued.
守りたいのに守れない。
どう足掻いても、天人の力には勝てないんだよ。
そんな永倉さんの苦悩。
苦悩しかさせられない書き手の度量のなさ…。[ 122/129 ][*prev] [next#]
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