届かない想い(に)


胸の印が熱を持つ。
熱い、痛い、むず痒い、苦しい。色んな感覚がぐちゃぐちゃに混ざって、体の中で訳のわからない状態になっている。


新ちゃんが私の名前を呼ぶ。
その声が聞こえているのに、どうしても返事はできない。

声が、出ない…。


ごめんね、大事な話をしていたのに。
ごめんね、心配してくれているのに。

浅くなる呼吸の所為で、頭がうまく働けない。


目の前にいる新ちゃんに縋りつく。
背中に回された新ちゃんの手が優しくて、私は場違いながらも心が暖かくなった。

ほわほわと意識が宙に浮かぶのは、新ちゃんに抱き締められているからなのかな。
それとも、あの声に惑わされている所為?

意識の端っこで、前にも聞いた謎の声が響く。


小百合、小百合。
一体どこで、どうしているの。

そう訊ねる声は、前と同じだ。


「……し…ちゃ…!」


声を振り絞って、新ちゃんの服を握り締める。
どうしたの、と私を覗く新ちゃんの声は、頭に響く声に重なる。


(…やだ、やだやだやだ…っ!)



誰が、話してるの?

誰と、話してるの?

ねぇ、本当に…あなたは誰なの?


私を必要だと言ったあの声は、聞き覚えなんかない。
それでもなんだか懐かしく感じて、感情をぐるぐるとかき混ぜていく。

苦しすぎて唇を噛み締める。
血が滲んだらしく、胸の痛みに混じって唇が微かに熱くなった。


『小百合』

「小百合!」

『待っておいで、すぐに迎えに行くから』

「小百合、落ち着いて…小百合…っ」

『ほら、小百合…』

「小百合…あぁ、もう…!」



現実が、幻想が、近くで、遠くで、呼び止めるように、突き動かすように、私を、…私を。

(…たすけて)




口の中で呟いて、私はどろどろと眠りの狭間に落ちていった。





To be continued.



守りたいのに守れない。
どう足掻いても、天人の力には勝てないんだよ。

そんな永倉さんの苦悩。
苦悩しかさせられない書き手の度量のなさ…。


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