逃亡と葛藤(いち)





「そーいや、さっき真選組の奴らに会ってな」



銀ちゃんは、そう言うと切っていた爪を纏めて屑入れに放り込んだ。
「銀ちゃん、爪、周りにいっぱい飛んでるよ?」と注意すれば、「…掃除すっかな」と小さく返された。


「銀さん、掃除機は自分でかけてくださいね」

「へいへい…。 あー、どっこいしよ」

「銀ちゃん親父くさいアル」

「うるせぇな、お前の布団に切った爪ばらまくぞコノヤロー」

「やってみろやコノヤロー、お返しにゲロぶちまけてやるヨ、コノヤロー」


「ねぇ銀ちゃん、真選組のみんなは元気だったー?」

「小百合さん、この流れでそれを聞けるって最強ですね…」


ばたばたしている万事屋三人を見ながらも、最初に銀ちゃんが言っていた言葉の続きが気になっていた私は、騒ぎの中心人物に首を倒して訊ねた。
新八ちゃんは呆れたような、感心しているような表情でこちらを見る。

どんなに騒いでようが、私は銀ちゃんが言っていた言葉の先が気になるのだから、致し方ないことである。



「そうそう。それでな、小百合に会えなくて寂しいとか言ってたぜ」

「そっかぁ…、私もみんなに会いたいなー」

「…あと、ちゃんと小百合を守れって言われた」

「んぅ? 新ちゃんがいるし、銀ちゃん達もいるから大丈夫だよ?」


笑って言えば、銀ちゃんは眉根を寄せて顔を顰(しか)めた。
あれ、あんまり大丈夫じゃないのかな。
そう思っていると、軽く私を睨んで言葉を続ける。


「俺達が居ても、お前が好きに動き回ってたら意味ないんだけど。 この前の祭だって、勝手に永倉から離れて連れてかれたんだろうが」


正論だ。
けれど私は、それに対して笑顔を返す。
すると銀ちゃんは、「笑ってごまかすな」と厳しく言い放った。



「新ちゃーん、銀ちゃんがいじめるー!」

「小百合、今のは坂田さんの言い分が正しいヨ?」

「…っ! 神楽ちゃぁぁんっ、二人がいじめるぅぅ!!」

「おー、よしよし可哀想アルな小百合〜。あと、おつむも可哀相アル〜」

「神楽ちゃん、それ全然フォローになってないからね。寧ろ小百合さんの事バカにしてるからね」


なんて事だろう、助けを求めた先で突き放されて、泣きついた先でもバカにされてしまった。
とうとう行き場をなくした私は、泣き真似していた両目に本物の涙をにじませて唇を引き結ぶ。

やべ、と新ちゃんが小さく言ったのが耳に届いたけれど、もうそんな事は知らないのだ。


「小百合、バカだけど…ばかじゃないもん…」

「いや、認めてんじゃん」

「…ちょっ、坂田さん黙って!」


「もうしらない! みんな嫌い!」


側にあった分厚い読本を銀ちゃんに投げつけて、私は部屋から駆け出す。
「でも新ちゃんは好きなんだからぁ!」と捨て台詞を吐いて部屋の戸を閉めると、私は玄関から飛び出した。

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