逃亡と葛藤
(に)
『でも新ちゃんは好きなんだから!』とは、なんて捨て台詞だろうか。
俺は溜め息を吐いて頭を抱えた。
目の前には、俺を睨む永倉の姿がある。
「大変アル銀ちゃん、小百合、家から出てったネ!」
「ごめん神楽ちゃん、ちょっと追い掛けて連れて帰ってきてくれるかな…?」
「わ、分かったアル!定春も一緒に迎えに行くヨ!」
「ワン!」
俺が答えるよりも早く、永倉が神楽の言葉に返事をした。
出ていった赤と白を見送りつつ、永倉を一瞥する。
変わらず睨み続けている奴は、億劫そうに舌打ちをして俺に話しかけた。
「…一言余計なんだよ」
「あん? 馬鹿って自分で認めてたじゃねぇか」
「そうだけど! …そうだけど…、けど、小百合にとっては全然違うんだ」
「お前、小百合に対して甘すぎなんじゃねぇの? ちょっとは厳しく…」
「俺だって、『注意』はしてる。でも出来れば『叱責』はしたくない。 あの子は、呆れられる事と怒られる事に対して、滅法弱いから…」
そこまで言って、永倉は腰をあげた。
そばかすのあるその顔を見れば、苦虫を噛み潰したような表情で佇んでいる。
ごめん、忘れて。
そう吐き捨てた永倉は、一度己の頬を拳で叩いてから首をもたげた。
「俺も、小百合を迎えにいってくる」
「え、…お、おう」
裏のある言葉を残して部屋を出ていった奴は、何だか思い詰めているようにも見えた。
To be continued.
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