幸せの構図(いち)


壁にかけられた暦、日めくりカレンダーと呼ばれていたそれは、銀ちゃんの手によって毎日捲られ捨てられていった。

段々と身を薄くしていくそれは、私と新ちゃんがこちらの世界に来てから随分と経った証拠でもあった。


「…小百合さん達が来てから、どれくらい経ちますっけ?」

「サザエさん方式の漫画に、そういう事聞くなよ」

「二次創作だから聞いてんだよ…って、そういうメタ発言は止めてください」

「お前ら、二人ともメタメタメタメタうるさいヨ!黙れアル!」




スパパーン!と、ハリセンが小気味のいい音をたてて銀ちゃんと新八ちゃんの頭の上を通過した。
頭を抱えて悶えた二人は白いハリセンを肩に当ててふんぞり返った神楽ちゃんを睨み、神楽ちゃんもそんな二人を睨み付ける。



最初に言ったのは銀さんなのに、何で僕まで!
新八だって乗ってきただろうが!
二人がそうやってメタ発言して、読んでる人がどんな思いをするかわかってるアルか?!
おめぇもしてんじゃねぇか!!




私にはどうしても理解出来ないそんな会話をする三人に、新ちゃんが盛大に溜め息を吐いた。
その表情を見る限り、「どうでもいい」って思ってそうだなぁ。

そう思っていると、万事屋の行動全てを知ったこっちゃないという感じで新ちゃんが口を開いた。


「…ねぇ、その会話すごく不毛だと思うの、俺だけ?」

新ちゃんのその言葉に、三人は動きを止める。
そしてそのまま、いつも通りの日常に戻った。

新ちゃんはそんな三人の行動を見届けてから、もう一度溜め息を吐いた。




「あ。俺、今日も仕事だから、小百合の事よろしくネ。新八君、神楽ちゃん」

「おうヨ!」

「はい、わかりました!」


新ちゃんは、こっちの生活に少しずつ慣れてきているようだった。
当初「平和って、すごく暇」と不服そうに言っていた彼は、いつのまにかどこかの飲み屋さんで臨時で探していたという用心棒のお仕事に就いていた。

一方私はというと、『外に出る度に危険に首を突っ込むから駄目だ』と言われているので、お出掛けは神楽ちゃんと一緒に行く定春君の散歩と万事屋の下にあるお登勢さんのお店だけである。

さっきの言葉通り、今日も新ちゃんは夕方からお仕事らしいので、私はお留守番だ。



「永倉さんって、ほんとに銀さんよりしっかりしてますよね…」


知らない場所へ来ても、ちゃんとお仕事を見付けてきて万事屋にお金を渡している。
そんな新ちゃんに、新八ちゃんは感嘆の一言を漏らした。


「お前、それを雇い主である俺の前で言うか?」

「新八君、俺はこんなダメダメな大人の下でタダ飯食らいの居候になりたくないだけだよ」

「てめぇも容赦ねぇ言葉を投げてくんなよ」

「ダメダメなのは真実だろ? それをどう言い繕うつもりなのカナ」

「あん? 喧嘩売ってんのかコノヤロウ。今は依頼がないだけで、俺だって仕事してんだよ」


どんな会話をしていても最終的に口喧嘩になったしまうのは、もはや新ちゃんと銀ちゃんの標準的行動である。

そんな二人を見ていると、神楽ちゃんが小声で私に訊ねた。


「小百合は、ちっちゃい新八が夜いないのは寂しくないアルか?」

「んう…ちょっとさみしいよ。 でも、行ってらっしゃいって言える幸せの方が、さみしいよりおっきいの」



笑って答えれば、神楽ちゃんは大きな青い瞳をぱちりと瞬かせて「そうアルか」と拍子抜けしたように言った。
どんなに寂しくてもここに帰ってきてくれるのは確かだし、そもそもこっちの世界に来る前は違う場所で暮らしていたのだから会えない時間なんて何も問題はないのである。



「…小百合の事だから、迎えに行きたいとか言い出すと思ったヨ」

「あー…小百合、夜は眠たいから新ちゃん待ってられないんだよねぇ」

「薄情な彼女アルな」

「行ってらっしゃいって言えるだけで嬉しいから、それで充分なの!」


そう言って笑うと、神楽ちゃんは意味深長に「ふぅん」と酢昆布をかじった。

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