瑠璃紺恋歌
(いち)
どぉん、と爆音が響く。
その音の発信源は、桂特性の時限爆弾だ。
もしもの時は使うといい。
そう言って渡された数個の塊は今、全力で仕事をしていた。
何回かの虚無感と絶望を味わった後、やっと引き当てた『当たり』には、予想通りの歪んだ笑顔があった。
俺と永倉の二人が小百合を探しながら歩き回り、あちこちに爆弾を仕掛けつつ着いた広い場所は、吹き抜けのようになっていた。
二階ほどの高さにある、張り出した廊下部分に佇むのは、高杉と、その仲間のヘッドホンを取らないミュージシャンじみたあいつだ。
俺達よりも高い場所にいた二人は、こちらがこの場所へ向かっていたのを把握していたかのように、飄々として浅く笑った。
「よぉ銀時、俺に殺されにきたのか?」
「へっ、残念ながらそんなシュミはねぇな! それよりも、小百合を返してもらおうか」
「くくっ、そうはいかねぇな。 身を寄せるくせに口付けを拒んで、抱き締めろと望む割りに押し倒せば泣きそうに顔を歪ませる。そんな女でも、今は俺の物だ」
高杉の言葉に怒りを顕著にする永倉に小さく声をかけると、心苦しそうに返事をした。
自分と恋仲の女がそうなってるのを想像するのは、ツラいはずだ。
けれど、今の高杉の言葉はどこかおかしくはないか?
「ねえ…今の、聞き捨てならないんだけど…。小百合がアンタに身を寄せて、抱き締めろと望むなんて、…そんなのあるハズない」
永倉が俺の疑問を代弁するように、高杉を睨んで感情を吐露した。
その反応に満足したのか、高杉は問い掛けには答えずに薄く笑う。
「──あの娘が言う『しんちゃん』は、お主でござるか?」
ヘッドホンの男が相変わらずの無表情で俺と永倉を見比べ、少し思案してからそう言った。
それは当然永倉にかけられた言葉で、突然のそれに永倉は面食らう。
すぐに冷静さを取り戻して返事をした永倉に、高杉が満足そうに口角を上げた。
「なるほど…似ても似つかないでござるな」
「くくっ、これだけ違えば、そりゃあ『しんちゃん』に違和感も感じるだろうな」
「ふむ…そうでござるな」
意味深な会話に、眉を顰(ひそ)める。
新ちゃんに違和感も何も、小百合の言う『新ちゃん』はいつだって永倉しかいないはずだ。
こっちの世界の新八を新ちゃんと呼ぶのだって、泣いて嫌がったのだから。
それなのに高杉は、まるで己が『新ちゃん』かのような事を言う。
──そうか、あいつの名前は晋助だから、『しんちゃん』にはなれるのか。
心の何処かでそんな事を思う。
その時、遠くの方から女の声が響いた。
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