瑠璃紺恋歌(に)



「しんちゃん!」



弾かれるように、永倉が後ろを振り返った。
おなじように、俺もその声の発信源を追って踵を返す。


この声は、守りたいと心の底から感じたあの少女のものだった。



「やっと見付けたっ! しんちゃん、ちょっとお話があるの!」


けども、彼女はこちらなんて見ていなかった。
ちょうど高杉のいる場所と繋がる、同じ高さの廊下から現れた為、下など見ていないのだろう。
そうだとしても、ここまで気付かれないのはあまりにも悲しい。

小百合、と永倉が小さく呟いたのが、俺の耳に届いた。


広い部屋の壁沿いに通路がある為、高杉の所へ行くにも少し距離がある。
「見えてるのに遠い!」と独り言のように呟いたのが聞こえたけれど、その様子は離ればなれになってしまう前と何ら変わらぬ気がした。

やっと高杉の元まで行った小百合は、派手な紫の着物の袖を掴んで俯く。


「…小百合、部屋に戻ってろ」

「だっ、駄目なの! だって、急がなくっちゃ…」

「小百合殿、ここに居たら危ないでござるよ? 晋助と一緒に部屋に…」

「でも、万斎さん。小百合、もう全部思い出したんだもん」




その言葉に、高杉達は目を見張った。

その二人の反応を見て、意を決したように小百合が一歩後ろへ下がる。
掴んでいた袖を引っ張って離し、首を倒す後ろ姿を見て、恐らく微笑んだのだと悟った。


「だから小百合は、ここには居場所を作れないの」


しんとした空気に、そんな言葉が響いた。
こちらにはなんの事か解らなかったが、後ろ歩きで距離を取る小百合の手を取ろうと、高杉が腕を伸ばす。

その表情は、いつもとは違う。
なんだか、昔見た悲痛な表情に似ていた。

それは、そう、大切な人を失った、あの時のような──

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