想い出は色褪せて
(いち)
『小百合…』
夢を見た。
久し振りに見たこの夢を、私は少し心待ちにしていた気がする。
『小百合、会いたいよ…』
ねぇ、私も会いたいよ。
貴方はだぁれ?
なんで私の名前を知っているの?
(聞きたい事が、たくさんあるの)
暗闇の中で響くその声に答えようと、口を動かす。
前と同じで、息は出来るのに声が全く出ない。
ぱくぱくと動くのに何も紡げないそれが悔しくて、私は唇をすぼめた。
『…小百合、お願いだから…』
お願いだから?
待っていてと言ったのはそっちの筈なのに、何でそんな事を言うんだろう。
まるで私が逃げたみたいじゃないか。
『会いに行くよ、今すぐにでも。だから小百合…』
今度はちゃんと、待っていてね。
響いた声が、暗がりに消える。
今度は、と言われても、私はどこにもいってないのに。
しんちゃんの側に居る。
昔から、変わらないのに。
…あれ、昔から?
私は異世界から来たって、さがるんやトシちゃんが言っていた。
しんちゃんとは、ここに来ちゃう前から知り合いのはず。
けれど、しんちゃんはこっちの世界の人だ。
訳がわからない。
しんちゃんは、しんちゃんで。
しんちゃんが、しんちゃんで…。
あれ…?
小百合、誰の事をしんちゃんって呼んでるの?
ふわふわと、思考があっちこっちに散漫する。
夢から、覚めそう…
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