色々な始まりの(いち)

  

とりあえず決まった事。
俺達万事屋は小百合の為に働く、っつー事。


いや、でもさ?
『私が帰るべき場所に帰る為の手助けをしてください。』って、具体的にお前の家は何処なんだよ。



色々と、前途多難じゃね?


「お前を帰すって、大体何すりゃ良い訳?」


半ば投げ出すように、俺は小百合に問い掛けた。とはいえ、知らない間に此処にいたという本人にわかる筈がないんだが。


「なんか。なんか情報くんない?こっちは何もないトコから始まってんだからさ」

「情報、って例えばどんな?」

「お前の居た場所とか、今までどんな暮らしをしてたか、とか。そういった、他愛のないのでいいからさ」

つか住所だと嬉しいんだけど。
そう付け加え、俺はソファにどっかりと座り直す。
けれど目の前の大きな瞳は、そんな俺の事なぞ気にしていないかのようにぱちぱちと揺れた。
顔だけは整ってんだから、黙ってりゃ上玉だと思うんだけどなぁ、なんて考えていると、体を揺らして思案していた小百合が口を開く。


「んとねぇ…し」

「新ちゃんの話はもう勘弁ね」

「う、…はぁい」


ずばり言った俺の言葉に、小百合はしゅんとうなだれる。
おっと、意外と素直だな。可愛いヤツめ。


「んっとねぇ…じゃあ今日は平助ちゃんの話」

「いや誰だよ、平助って」

「平助ちゃんは新ちゃんの友達だよ」

「テメェの友人話はもういいんだよ!」


前言撤回、やはりコイツは何処かおかしい。


俺の言葉に、再び頭(こうべ)を垂れる小百合。
とりあえず、コイツの世話した奴を全霊で讃えたいと思う。こんなに人の話を聞かねぇんだヤツを、よく此処まで育てたよホントに。


「えっと…銀ちゃん…私、文(ふみ)とか出さないから自分の家の場所なんてわかんないよ?」

「…………はぁ?」


家の場所、住所がわからない馬鹿をどう救えっていうんだマジで。
こいつ、箱入り娘かなんかか?

うなだれる俺。
それを見て心配そうに首を傾ぐ小百合。
いや、原因はお前だから。何他人事みたいな顔してんだコラ。


「もーダメだ。これはきっと神様が与えた罰だ。 なんかもう、そんな勢いで駄目だ。」


自暴自棄になりながら、ぶつぶつ呟いて額を覆うと、小百合は汚いモノでも見るかの様な顔でさっきと逆の方向に首を傾げた。


「えっと…んと、……げ、元気出して銀ちゃん!」

「おー…って、この場合お前からの応援は無意味だがなぁ……」


拳を握って言う小百合の頭をくしゃくしゃに撫でながら、俺はソファに深く座り直した。

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