夕焼け、黒猫、悪の花
(いち)
小百合のいない屯所は、すごく静かで胸糞悪かった。
数週間前まではこんなだったと思うのだけど、けれど確実に違うのは幕府上層部の天人から言われた言葉の所為だと思う。
「ぜってぇにオカシイ」
小百合のおやつ用に置いてあった金平糖をかじりながら、俺は呟いた。
「総ちゃん、それ小百合のだから一人で食べないで!」なんて声が聞こえてきそうで、思わず頬が緩む。
口内を染めていく星の甘さは半端なく怠くて、小百合の笑顔があればもっと心地好い筈なのにと複雑な気持ちになった。
程なくして、再び江戸で祭が行われる事になった。
天人のなんちゃらで、どーとかこーとかと色々な説明をされたが、ぶっちゃけ俺には関係ない。護衛、警備、交通整備と多方面に駆り出された真選組は非道く忙しく、俺は例のごとくブラブラと歩き出した。
「サボんじゃねぇ!」と背中にかけられた土方さんにかけられた言葉はいつもよりも覇気がない。きっと、小百合が居ないからだ。
そして、俺が仕事にやる気を出せないのだって、きっと小百合が居ないからだ。
(あーあ。小百合元気にしてっかなぁ…)
小百合は、祭りだのなんだの、こういった騒がしいイベントは好きだった筈だ。
もしかしたら、万事屋の旦那に行きたいと駄々こねたりしたんだろうか。止められて拗ねたり、慰められて笑ったり、そんな百面相をしたんだろうか。
そんな小百合を思い浮かべると、少し心が軽くなった気がした。
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