夏に降る雪の花(いち)



山崎から一本の電話が入ったのは、小百合を真選組の屯所から連れ帰った夜の事だった。



「匿え…? どういう事だ」

「何も言わずにお願いします。…いえ、小百合ちゃんの事だからこそ、旦那にお願いしてるんです。」


意味の解らない申し出に、思わず顔をしかめた。
電話口の向こうからは、尚も真剣な声色が響く。


「原田に聞きました、小百合ちゃんは今、旦那のトコに帰ってるって」

「そりゃそうだけどよ…。 お前らの事だから取り返しに来るとか思ってたんだけど?」

「俺達真選組じゃ、出来ないんです。 助けられないんです。 真選組隊士全員、旦那に懸けるしか…」


だから旦那、お願いします。
そう言った切羽詰まった声に、俺はただ頷くしか出来なかった。

 
「暫く、仕事は無しだとよ」


山崎からの電話を切り、俺はハムスターのように黙々とご飯を頬張っていた小百合に伝えた。
すると小百合は小さく唸って咀嚼していた物を飲み込み、首を倒して俺の目をじぃっと見つめてから何故かと問う。

説明した所で、こいつに伝わるとは到底思えない。そう思い、俺は溜め息を吐いた。


「銀ちゃん、溜め息つくとね、幸せが逃げちゃうんだよー?」

「おー、そうかよ。 とりあえず、真選組の奴らが休んで良いっつったんだから、お前は休んでおきゃイイだろ」

「そーう?」

「そーそ、だから早く飯食え」

「うぁ、うん食べる」


俺の言葉に促され、小百合は止めていた箸を動かした。それと同時に、永倉が箸を止める。
どうかしたのかと小百合の隣に座っていた永倉の顔を見れば、永倉は訝しげに眉を顰めた。


「なんだよ、なんか不満か?」

「いや、別に不満がある訳じゃないんだけどサ。 今の、あのもぬけの殻だった真選組からの伝達だったんでショ?」

「ああ」

「一体何で居なかったのか、とか、聞かなかったノ?」


見上げる面の真剣さに、俺はぐっと息を詰まらせた。
居なかった理由。確かにそれは聞かなかったけれど、山崎は何も訊いてほしくないようだった。

あんなに切羽詰まった声音で言われたら、問い質すのは悪い気がした。

何かあるのは確かだ。
高杉関係か、それとも別の何か。
とにかく、小百合を屯所に置いておくのが危険だと判断されたんだろう。


「…とりあえず、俺達は小百合を守れって言われた。 それだけだ」

「あぁ、そう…。 ご馳走様でした」

「ごちそーさまでしたっ」


眉を顰めたまま手を合わせた永倉に続いて、小百合がぱちんと手を合わす。そんな二人に、新八は茶を注いだ。

ありがとう、どう致しまして、とほのぼのとしたやり取りを繰り広げた小百合と新八。
差し出された湯飲みを受け取り、永倉も新八に礼を言った。

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