桃に染まる空(いち)




「『真選組屯所を、空にしろ』? どういう事だよとっつぁん」

「言った通りに決まってるだろう近藤。 あの円小百合って娘を屯所に一人残して、真選組全員で幕府中枢に来いってぇお達しだ」


解ったかぁ、と訊ねた松平のとっつぁんの言葉に、俺は腑に落ちず反論する。


「全員って、総悟は怪我をしてんだぜ?!」


総悟だけじゃない。
不逞浪士との斬り合いで怪我をした隊士や体調の優れない隊士だっているのだ。
そんな隊士を全員引き連れて幕府中枢に行くなど、真選組局長をしている俺は許せなかった。



「無理、じゃねぇんだよ近藤。お前ら真選組は、幕府に仕えてこそ意味があるんだろうが」

「しかし、とっつぁん!」

「何度も言わせんな。 お前らの存在意義は幕府あってこそだ、勘違いすんじゃねぇぞ」


俺を窘めるような視線。
とっつぁんの言葉に、俺は息を詰まらせた。





「…全車両の隊士に連絡してくれ。早急に屯所に戻るように、と」


とっつぁんが帰った後、力無く言った俺の言葉に、電話番として残っていた隊士は「はっ」と短い返事をした。そのまま連絡室へ向かった背中を見つめ、俺は長い溜め息を吐いた。


確かに、幕府が居なくちゃ俺達は存在していられない。
しかしとっつぁんの言った『幕府中枢』とは、要するに天人達の事だ。

致し方の無きことだと思っても、やはり嫌悪感は否めなかった。


祭の警備に回っていた奇数組と街の巡回をしていた偶数組。
殆どのパトカーが出払っている状態で、皆が屯所に戻ってくるには時間が掛かるだろう。

戻り次第来るようにと言い残して先に屯所を出たとっつぁんを思い出し、また溜め息を吐く。話があるからと言われてトシ達よりも早く帰ってきたけれど、こんな事ならば祭の警備をしていた方がマシだった。

もしかしたらお妙さんに会えたかもしれないし、なんて小さく呟き、一歩足を踏み出す。


その瞬間、パァンという銃声が耳に届いた。


ぞわりと背中が粟立つ。
いつも死と隣り合わせな職業に就いていながら、恐怖感が体を襲う。

俺は音のした方向へ、一目散に駆け出した。脇目も振らずに廊下を走ると、一室から吐き気をもよおす程の鉄臭さが漂ってくる。
誰かが撃たれた、そう確信すると共に、疑問も浮かんだ。

一体、誰に?


攘夷志士が屯所に紛れ込んだのだろうか。
ちくしょう、動ける隊士は殆ど出払っているっていうのに。

開いていた戸に手をかけて、勢いよく中を確認する。するとそこには、予想通りの光景が広がっていた。

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