不穏な平穏
(いち)
投げ出されたのは不思議な世界。
不安になったその中で、不思議な不思議な希望の光が、不思議な角度から差し込んだような。
そんな気がした。
気がした、だけかもしれないけど。
それでも目の前の男の子が救い主になるだろう事は、間違いないだろうなぁ。
そう思った。
「良かった。目、覚めたんですね。」
眼鏡の男の子が、にこりと笑ってそう言った。彼は私を知っているようだけど、私は知らない。
なのでただただ無言でその眼鏡の奥のくりくりとした飴色の目を見るしかなかった。
「いや、知り合い?」
「いやいや、知り合いっていうか……買い物から帰ったら万事屋の前で倒れていたので介抱したんですよ。」
「いやいやいや…介抱って、お前居なかったじゃん」
「…ちょっと買い忘れに気付いたのでもう一度出掛けたんです。そしたら、神楽ちゃんに捕まって、酢昆布たかられてました」
「あぁ、なるほど」
眼鏡君が言ったその言葉に、銀ちゃんはそう納得した。
私も思わず銀ちゃんと一緒に成る程と呟く。
「ん…? 待て、店の前で倒れてたって事は、また『預かって下さい』的なヤツ?」
「銀ちゃん馬鹿アルか? 赤ちゃんじゃないんだから、こんな立派な大人預けるヤツなんて居ないヨ。きっとこの人依頼人ネ。そうじゃないアルか?」
今度は赤い服の子が私に詰め寄った。
な、なんか変な喋り方の子だな…。
私が黙って困惑していると、銀ちゃんが助け船を出してくれた。
少しけだるそうに、私の頭をぽんと叩く。
「あのな。ウチ、万事屋っつーなんでも屋みたいな事やってんだ。」
「な、なんでも屋…? というか……銀ちゃんお店してるの?」
「おー、報酬貰えたら大低の事はやるぞ。気が向いたらな。」
(うわ、私だったらこんな人に物事頼みたくないよ……)
思わず出そうになった本音を飲み込んで、私は笑った。
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