不穏な平穏(に)

 


「なーんだ、客じゃないアルか」


銀ちゃんにした、いつの間にかここに居たという説明を一通りすると、赤い服の不思議な子がそう言った。
そんなにお客さんに来て欲しいのかな。
こんなに小さな女の子が奉公に来るぐらいだから、そこそこの仕入れはあるのだと思うけど、よほど客の入りが悪いのだろう。


「私は神楽ネ。よろしくアル、小百合」

「うん、よろしくね神楽ちゃん」


にこりと笑った神楽ちゃんが可愛くて、私もつられて首を倒して笑った。


「ついでに、そっちのダメガネは新八っていう眼鏡ネ」

「誰がダメガネだ、誰が!」

「うるさいアル新八、ダメガネのくせに!」

「全国の眼鏡愛用者に謝れ!!」

「残念ながらバカにしてるのは新八だけアルー!」



どたばたと、神楽ちゃんと新八と呼ばれた眼鏡君が言い争う。
一方私はというと、ただただ絶句していた。


だって。

新八、だなんて。


新ちゃんと同じ名前だなんて。



「…こ…こんな新八さんやだぁぁあっ!!」



私は耐えられなくなって思わず声をあげた。
それは所謂泣き声であって、要するに叫ぶにつれて涙が込み上げてくる。
ボロボロと溢れるそれに、周りにいた三人は目を丸くした。

否、もしかしたら叫んだ言葉に対して驚いたのかもしれない。
特に新八さんは自分を否定されてる風にも聞こえるし…。


(ああ、怒られるかも。)

泣いてしまったからには引っ込みはつかない訳だけど、私は新八さんかもしくはその他二人に何かしら文句は言われる覚悟で涙を拭った。

しかしそんな私の耳に届いたのは、ちょっと信じられない言葉だった。

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