色々な始まりの(さん)

 

「小百合、ちょっと奥の部屋行ってろ」

「え、なんでー?」

「仕事優先、休憩はお前一人で奥の部屋で堪能してろって事だよ。ほれ、まんじゅうもやっから」


探し出したまんじゅうを渡すと、小百合はにんまり笑って奥の部屋に引っ込んだ。

ああ、なんて扱いやすい。
まるでガキだ。


改めてソファの方に向き直ると、そこにさっきの黒猫のような3人はちょこんと座っていた。


「とりあえず、まずは名前を聞いていいっすか。なんかもう、黒猫以外に呼び方が浮かばないんで」

「……人を訊く前に、まずそっちから名乗るモノではありませんか」

「あー、そうね、確かにそうだわ。…俺は、坂田銀時。 で、さっきまで此処に居たのは…まぁ、居候みたいな」


にっこり笑って言った毒のある華に、俺は渋々名乗る。
筋のある意見だが、こいつの言い方がどうも気に障ってならない。
目の前のそいつは、俺の名前を噛み締めるように小さく咥内で呟いた。

「私の名前は、坂田さんが依頼を受けると決めたらお教えします。とりあえず、宜しくお願いしますね。」


そう言って頭を下げるそいつに併せるように、両隣のちびっ子も無言で頭を下げる。
どうやらこの二人は、にゃー以外は喋れないみたいだ。

アレ、人に名乗らせといて自分は名乗らないとか、結構無礼な気がするの、俺だけ?

全然筋通ってないじゃん。


「で? 頼んでみたい事っつーのはなんなんですか、一体」

「探してみてほしい人がいましてね」

「……はぁ」

「私の願いを叶える為に、その人を是非貴方に探してみていただきたい。」


要するに、人探しの依頼という事か。
俺は笑顔を絶やさない奴を見たまま、息をついた。随分と厳かな風体で、依頼が人探しとは思ってもみなかった。

「一体誰を」と訊ねたいところだが、それよりさっきから引っ掛かるのは、あの言葉。



「なんで『探してみてほしい』なんだ? 探して『ほしい』じゃなく、『みてほしい』。まるでこっちの力を試そうとでもしてるみてーじゃねぇか」



俺のその言葉に一瞬だけキョトンとした黒猫が、ニヤリと笑った。
さっきまでの華やかな笑顔とは違う、いかにも妖しい笑みに俺は戸惑いを隠しきれず、そして恐怖すら感じた。 

沈黙の中、すっくと立ち上がったそいつに倣って横の小さいのも立ち上がる。
何だか手を出したら引っ掻かれそうなその雰囲気に圧され、俺は無言でドアへと向かう黒を見詰めた。

……って、ちょっと待て。


「依頼はどうなるんだよ」

「……余計な詮索はなさらないと約束していただけるなら、ちゃんと依頼しますよ? 話す機会が来れば、ちゃんとお話ししますし」


その会話の内もずかずかと玄関に向かう足は止まらない。それを追いはするが、触り難い所為で俺は後ろにつくしか出来なかった。
玄関の戸に指をかけ、大きな黒猫はこちらにやっと眼を向けた。


「守っていただけるならば、是非『異世界の姫』を探してみていただきたい。 誠の名も姿も知らぬまま、ただ情報は『異世界の姫』であるというそれだけ」


貴方に出来ますか?と投げられた挑戦的な言葉に、俺はまたカチンとくる。
いちいち癪に障る奴だ。

「……引き受けようじゃねぇか、お前さんの難儀な依頼」


気圧されながらも、俺は奴を睨むように見上げて言い放った。まさに、売り言葉に買い言葉である。
それに気をよくしたのか、黒猫の最初と同じような華やかな笑みを見せ、玄関の戸をがらりと開けた。

途端びゅっと突風が吹き、白い髪が風に遊ばれる。身体に巻き付けていた黒い毛皮も風に揉まれるようにバタバタと翻った。

「私の名は鈴、大和屋鈴。 坂田さん、貴方が私にとって良い結果を残す存在になる事を願ってます」


鈴と名乗ったそいつは、また不気味な笑みを浮かべるとスッと戸の陰に身を消した。
開けたままの戸の向こう、姿が見えないまま声が響く。


「おいで、頭(つむり)、腦(なづき)。」


呼ばれたらしいさっきのちびっ子は、足音ひとつ立てないまま鈴の消えた戸のあちら側に吸い込まれていった。


そして訪れる静けさ、人はこれを嵐の前の静けさと呼ぶのだろうか。
かくして、俺達万事屋は今までにないぐらいに無理難題な依頼を二つ受けてしまう事に相成ったのであった。

 
To be continued.

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