ヘンゼルとグレーテル

08


 さくさくと草を踏み分けて歩いていると、グレーテルが呟きます。

「お父さん、またおかあさんとヤってるのかな…」

 その中へ帰るのはなかなか勇気のいることでしたが、幼い兄妹には家以外に帰る場所など――。

「お父さん、おかあさんとヤるために僕らを追い出したんだよ。ずるい」

 ――違いました。グレーテルは両親の情事に参加する気満々です。
 応えに困ったヘンゼルは、黙って枝を払いました。

 そのときです。

 ふたりの前に小さな家が見えました。その家に近付いてみると、なんと全て、お菓子で出来ているではありませんか。
 屋根はチョコレート、壁はビスケット、窓のガラスは氷砂糖で、扉はクッキー、ドアノブはキャンディです。

「すごい」
「蟻がいないね」

 ふたりは冷静でした。
 けれど確かに、おなかは空いているのです。

「蟻が寄りつかないお菓子、食べて大丈夫だと思う?」
「中のひとに食べ物もらった方が色んなイミで安全じゃない?」

 ふたりはどこまでも冷静でした。

 ドアをノックすると、中から「誰だい?」と声がします。思いがけず若い声です。
 開いたドアの向こうから現れたのは、深い緑色のローブをまとった、魔女でした。

「あの、食べ物を分けていただきたいんですが」

 ふたりはとにかく冷静でした。相手が魔女だろうが構いません。

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