01



「目が醒めたか」

「…お前は…」

 意識を取り戻し、最初に見たのはがっしりした体格の壮年の男だった。見覚えは、…ある。

 麻倉が3日前に逮捕した違法薬物売人が属する組織の、No.2とされている男。

「…木築」

 名と顔だけは知っている。だが今まで闇に潜んで出て来なかった大物が、なぜ。

 状況を把握しようにも、椅子に座らされた麻倉はお約束通りに麻倉自身の手錠で後ろ手に縛められている。脚も太いベルトでそれぞれ椅子に拘束されている。

 おまけに椅子は随分と重厚な作りのようだ。躯を動かしても、椅子はびくともしない。ボルトで止められてでもいるのだろうか。


「!」


 不機嫌そうなしかめっ面のまま近付いて来た木築は麻倉の背後に手を伸ばし部屋の電気を点けた。同時に麻倉は思い出す。

 執務時間の終わり際、署に戻る途中で衝撃と共に意識がなくなったことを。それも後輩の相方と共に居る時に。


「今井!」


 向かい側には気を失っている後輩がいた。椅子に座らされ手は身体の前で結束バンドで縛められている。青白い顔だが、息はあるようだ。

 場所は。ガレージのようながらんとした場所だ。ただし、シャッターのようなものはなく、四方が分厚い壁と、ひとつだけやけに頑丈そうな扉がある。

 麻倉がそれらを確認したのを見て取って、木築は麻倉の前髪を掴んだ。

「ッ!」


「てめェにうちのルート切られたのは2度目だな」


 渋く低い声が凄む。だがそんな声も警察官、特に4課の刑事にとっては珍しくもない。木築の目には完全な理性が灯っていた。その事実にぞっと身が竦む。

「俺は職務を全うしただけだ。…あんたの上司を捕らえるまで追うからな」

 それでも喉から声を絞り出した麻倉に、ク、と木築は口角を上げた。笑顔のはずなのに凄みが増す。肉食獣のようだ。

「そうかよ」

 明確に嘲り笑う声。全くの好意のない視線。相手に染みついた煙草の匂いがする。引き攣るように麻倉も口の端を上げた。

 乱暴な手つきで麻倉の髪を離す。


「…下らねェ命令さえなけりゃア、な」

 はぁと短い息を吐き、木築が突然麻倉の顎を鷲掴みにして唇を重ね合わせた。

「ッ!? ん゙ん゙ッ!!」


 唇を甘く噛み、嫌に丁寧に、必死に閉じる唇の合わせを舐めて来る。
 ぞぞぞっ、と怖気が走って頭が真っ白になった。

「ン゙ン゙ン゙ぅ! んん゙ぅッ…!」

 必死に首を振る事しか出来ない。気持ち悪い、気持ち悪い…!

 ガチャガチャ手錠が鳴って、ギシギシ脚が縛り付けられた椅子が軋む。


「…え…? なん…?」


 麻倉が喚いた所為か、後輩が間の抜けた声を出した。麻倉から今井の姿は、体格差が歴然としている木築に隠れて見えないが、目が醒めたのだろう。

「な、っなにが…」
「んっ…ん、ぅ…っ」

 後輩にバレたくない一心で声が勝手に押し籠められ、首の抵抗も弱ってしまう。ぢゅっぢゅっ、ぢゅるっ、と音がして、相手の唾液で唇が濡れそぼる。眦に涙が浮く。


 今井の戸惑いを完全に無視して、木築は俺の唇をしゃぶり続けた。かなりの間、そうしていたような気がする。


 べろりと最後にひと舐めして、木築が身を起こす。…キスされていたのがバレてしまう…!

「あ…っせ、先輩…っ、これっ、ここ…っ、」
「…は、今井…」

 今井は目の前の男の向こうから覗いた麻倉と、振り返った木築の顔を見て絶句した。

 麻倉はできる限り俯いた。舐められ吸われ過ぎて、唇の感覚が変だ。

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