治して、先生。

01



「おはよう、調子はどうかな?」
「あ、おはよう先生。大丈夫だよ、もうギプスも取れるんでしょ?」


 もはや慣れたベッドの上で、毎朝の回診に来た医師・霜月の笑顔に修右も笑って返す。

 入院生活は退屈ではあったが友人達も会いに来てくれたし、ゲームも布団に潜ってイヤホンをすれば同室の患者にも迷惑を掛けない。
 面倒臭い事に学校からはちゃんと宿題も届くから、なんだかんだで時間は潰れたし。

 修右の問いに霜月は穏やかに頷く。


「ああ、週明けの検査で問題なければ外せるよ。今日で同室のふたりも退院だから、ゲームもし放題だね」
「あっはは、バレてた?」


 悪戯っぽく眼鏡の奥の片目を瞑って見せた霜月は、白衣を翻して立ち去っていく。

 霜月は落ち着きのある壮年の医師で、入院中看護師達の話が聞こえてくる限りではスタッフにも人気があるようだった。

 左足の骨折で短くはない期間サッカーが出来なくなって不貞腐れていた修右も、霜月が主治医となり愚痴も含めて色々と聞いてもらっている内に親しくなり、今では病院の生活も悪くはないとさえ思えた。

 リハビリも結構前に始まっているから、松葉杖でうろつける。そういう意味でも以前よりは不自由も減ってきたから、余計にそう感じるのだろう。


 そして今日も、修右は白い部屋で1日を過ごす。





「…4人部屋にひとりって、ちょっと恐いな」

 夜、初めてひとりになった総室で、修右はぽつりと呟いた。這い上がる恐怖を追い払うみたいにイヤホンをしっかり耳に挿し込み、普段より大きい音量でゲームを開始しそのまま寝落ちした。


 修右が深夜に目を醒ますと、左足がぴくりとも動かない。ギプスによる固定、ではない。太いベルトのようなものでベッド柵にがっちりと拘束されている。


「ッぇ、なに…っ」


 ゲームのBGMが鳴り続けるイヤホンを引っ張り外した時、ベッドの足許に白い姿が立っていて「ひッ!?」思わず飛び上がった。


「し、──しもつきせんせ…?」
「こんばんは、井之崎君。寝てたところごめんね」


 ぴったり閉まったカーテンの内側に、いつも通り皺のない白衣を纏った霜月が、小さなワゴンと共に立っていた。それが、恐い。


「ちょっと急ぎの診察をしたくてね。動くと危ないから左足だけ固定させてもらったよ」
「な、なんの、」
「左足以外にもおかしなところが少し見つかってね」


 消灯済の病室でワゴンを更に傍に寄せ、ベッドサイドから医師が手を伸ばしてきた。

 修右のパジャマ代わりのTシャツの下に手を滑り込ませ、胸元を撫でた。冷たくはなかったけれど、ぞわっ、と修右の肌に鳥肌が立った。

「ひッ…! ゃ、やだ、霜月先生…っなに、やッ…」

 ぎしぎし、ベッド柵が啼く。恐怖に歪む少年の表情に、霜月は口角を上げた。


 小柄で、かわいらしい顔つきの少年。高校生男子の若い躯。運動もしている張りのある筋肉。

 スポーツマンだから、なんて言えば偏見だが、年相応でありながら大きくスレてはいない精神。入院して来た時からずっと狙っていた。


「ほら、分かる? 井之崎君」
「ん…っ、んぅ…」


 ぷにぷにと胸の飾りが医師の指に圧し捏ねられて、すぐに硬く勃ち上がった。それを次には抓まれてクリクリと弄り回される。

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