FANATIC LOVE 02 赤谷の手を取りながらも男は深々と頭を下げた。 「気付いたら、赤谷くんの誕生日の数まで集めようと躍起になっていて…」 「ああ! それで107枚だったんですね」 赤谷の誕生日は10月7日だ。俄然納得した。頭を下げ続ける稲坂に赤谷は笑う。 「いいえ、そんなに買ってくれて本当にありがとうございます。逆に、1007枚まで頑張られなくて良かったです」 「さ、さすがにそこまでは…」 パーティションの外。 当然彼らの会話に聞き耳を立てていたマネージャーは和やかな雰囲気に胸を撫で下ろした。 稲坂の言い分はスタッフに告げたものと同じで、その時も丁寧な物腰で謝罪を繰り返していた。ボディチェック後スマホを含め鞄も預かっているし、勝手に写真を撮られる危険もない。 パーティションの傍に立つふたりのスタッフに声を掛けて、マネージャーは他の個室へと向かった。 「夢みたいだ。赤谷くんにこうして触れてお話しできるなんて」 「そんな熱心に応援してくださってすごく嬉しいです。…でも、その、俺あんまり歌も上手くないし、どうして」 ガバッと稲坂は赤谷の二の腕を掴んだ。 「そんなこと!」 「ひゃっ!?」 「あっすみません…!」 驚愕した赤谷の悲鳴に即座に手を引く。パーティションの外からどうしました、とふたりのスタッフが覗き込む。 「あはは、大丈夫です。すごい熱量に俺が圧倒されちゃっただけです、ごめんなさい」 そのふたりを、赤谷は事実を告げずに追い払った。伝えていない事はあるが、嘘は吐いていない。 稲坂はその対応に感激して謝罪と感謝を繰り返し、そしておずおずとまた握手を求めた。もちろん赤谷はそれに応じる。 「赤谷くんのダンスが好きなんだ。小柄なのに全身を使うダンスが綺麗で。声も好きだ。透る声で。演技も好きだ」 「だ、大根って世間では言われてますけど…?」 さすがに面と向かって好きだ好きだと挙げ列ねられるのは面映ゆい。 「でも成長してる。努力してるんだろうなって想像できてとても観ていて楽しい」 「そ、そうですか…ありがとうございます、…っ?」 するり、と。 掴まれた手の甲を撫で、稲坂の指先が赤谷の指の股を撫でた。ひくりと躯を震わせた赤谷に構わず稲坂は話し続ける。 「やっぱり間近で見るときちんと鍛えているのが分かるね。この筋肉で、あのダンスを…」 じっとりとした視線で舐めるように見られながら、指の股や掌を弄くられる。 その手がじわじわと腕に進み、二の腕を摩ってくる。 「…っ、」 「ダンスは桃川くんも上手いけど、私は赤谷くんの方が好きだな」 やんわりと揉む。急所である脇に近い場所に触れられて躯が跳ねた。 「ッん…、ありがとう、ございます…、っ!?」 そのままぐいと二の腕を引かれ、抱き締められて唇を奪われた。驚いて開いた隙間に舌を捻じ込まれる。 熱いヌルつく生き物みたいな舌が赤谷の口内で暴れ回る。掻き回し、舐め回す。 「ん、ン…っ、ん…っふ…っ」 ぬちゃぬちゃと小さな水音がして、うまく息ができない。 その上「!?」突然股間を揉みしだき始めたので赤谷はひたすら混乱した。暴れる事すら忘れるほどに。 何度も角度を変えて唇を貪られて次第に頭が真っ白になり、腰が砕けそうになる。稲坂は赤谷の股に腿を差し入れて股間を刺激しながら支え、唇を離すと耳打ちした。 『…外のスタッフさんに怪しまれてしまうよ。会話はそのまま、ね』 「っ、? ? ッ…?」 大混乱のさなかにある赤谷の衣装の内側に、初対面の男の掌が潜って来る。 「ッ!? ゃ…っ」 「『し。』教えてくれる? 赤谷くんはどの曲のダンスに一番自信があるか。あと、どの曲のダンスが一番苦労したかとかも聞かせてもらえると嬉しいな」 「ど、どの曲…っ、ッ…て…」 [*前] | [次#] 『雑多状況』目次へ / 品書へ |