キミノスベテヲ

02


 いつも、くっつきたがるのは陸斗の方。
 拓真の部屋に入るなり、拓真の服の裾を掴んで、小さく言う。

「た、拓真…あの、…キスしよ…?」

 小さい頃からずっと一緒で、中学で陸斗が事務所に入ってからも会える限り会っていた。高校を卒業する頃にようやくアイドルとして芽が出た陸斗にキスをして告白をした。

 もう会えなくなる──遠い存在になる、そんな、最後のようなつもりだったのに、陸斗は赤面して小さく頷いて、それからもオフの度にこうして会いに来てくれる。

 愛しい恋人。
 壊したくない、泣かせたくないという思いと、めちゃくちゃにしたい、啼かせたいという思いがない交ぜになって苦しい。

 少し身を屈めて、そっと唇に触れるだけのキスをする。
 それ以上に進んだら止まれる自信がなかった。
 それでも陸斗は嬉しそうにはにかむ。

「大学、どお?」
「…別に。芸能界ほど、波乱はない」
「はは。そうかもね。…でもおれも、拓真とキャンパスライフしてみたいなぁ」

 座った拓真の肩に頭を預けて、陸斗は他愛もない会話をする。柔らかい髪、良い香り…頭の芯が欲望に塗れて灼き切れそうで、返す言葉はどこか上の空だ。

「そっちはどうなんだ」
「おれ? へへ、おれはね、主演じゃないけど映画決まったんだよ」

 へにゃと笑う陸斗に思わず拓真はごくりと喉を鳴らす。拓真が興味を持ってくれて嬉しいと、自分のことを拓真に伝えたいと、そんな陸斗の純粋な好意が眩しく──穢したい。

「…、すごいじゃないか」
「ありがと。でもね、…実はさ」

 少し寄った眉。照れたように言葉を捜し、ちらと伺う上目遣い。いや、身長差から必然と上目にならざるを得ないだけなのだが。

「実は?」
「…べ、…ベッドシーンがあってさ。おれ、そういう役初めてだから、今から既にすごい緊張してる」
「──…」


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