キスペット。

13


 売春の現場を警官に見つかったというのに、全く動じる様子もない、いつも通りの幼くすら見える顔がうっとりと笑う。鳶色の髪が街灯の下で鈍く光る。

「すごい。本当に警察官だったんだ」
「…何度目だい」

 煮えるような感情を押し込めて問うた声は、這うほどに低く。
 それでも海晴は怖気づく様子もなく首を傾げた。

「さぁ。でも、最後まではしてないよ。知己さんが俺にしたみたいに、アレにキスしてヌいてるだけ」
「な、んでそんなこと…!」

 海晴にその気がなくとも、そんなことをされたら歯止めが効かなくなる雄だって出てくるだろう。

 初めて見る私服は緩いカーゴパンツに指先近くまで袖のあるロングTシャツ。無防備に過ぎる。
 だけど。

「知己さんが次呼んでくれたときに、ちゃんと気持ち良くしてあげられるように、さ」

 にこ、と笑って、彼はそう言った。
 下半身が痺れるくらいに、痛く張り詰める。この『壊れた』子供は、なにを。

「知己さん。俺、知己さんにキスされたの、ほんとすごい気持ち良かったんです。初めてってくらい。…気持ちいいのは、幸せなんでしょ?」


 だったら俺の幸せは、あんたのキスなのかなって。


 穏やかさすら纏って、海晴が言う。幸せ? あんな、強姦すれすれのペッティングを?

 ぷつりと、なにかが切れる音がした。

 ポケットを探って、鍵を渡す。

「…本当に君が『幸せ』を俺とのキスだと思ってるなら、お店は介さなくていいね?」
「ん? …そっか、そう、ですね」
「…本当に後悔しないなら、本当にそれが『幸せ』かどうか試したいなら、部屋で待っていて」

 何度も確認するかのように言葉を重ねるけれど、海晴は嬉しそう──な顔すらせず、当たり前のように頷いてその鍵を手にした。


「わかった」


***


 仕事を終えて帰ってくるんだし、軽い食事でも用意しておこうか。
 海晴のそんな厚意は、帰宅したばかりの知己にいきなり抱え上げられて、放り出されるようにベッドに運ばれたお陰で、すっかり無きものにされた。

「わ、っぷ、とも、きさ…っ」

 慌てて起き上がろうとした海晴のシャツを荒々しい手つきで脱がせると、先日のように両腕を縛り上げられる。
 それからカーゴパンツも下着ごとずり下ろされ、大きく股を開かされて思わず赤面した。

「と、知己さんっ…!」


「ハル君、キスしよう」




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