キスペット。

03



「……」
「……」

 沈黙。

 このままでは、埒があかない。


「…んじゃ、早速?」


 さっと立ち上がって、ひとり用のソファに座る相手の膝へと乗りかかる。驚いて真ん丸になる、知己の目。あ、かわいい。なんて、馬鹿なことをちょっと思いながらも唇を重ねる。柔らかい。

 だいじょうぶ。タバコの匂いもない。このひととなら、キスできる。サービス、できる。
 海晴が機嫌よく何度も角度を変えても、さすがに知己は抵抗しない。

 けれど。

「っん」

 ヌル、と舌を挿れた途端、ぐいと肩を押されて引き剥がされた。

「え、あれ。禁則でしたっけ」

 発注書の内容を思い返しながら海晴が問えば、知己は「あ、いや」と慌てて視線を逸らした。

「随分と、平然とするものだから…。普段、男は断ってるんだろう?」
「──あぁ。いや、なんか平気だなーって。気にしないでいいですよ。気持ち良くしたげます」
「…いや、いい。俺も男なんだ、好きにさせてくれ。君は無抵抗で受けてくれるだけでいいから」
「ぇ、ン、」

 声が吸い込まれる。抱き寄せられて、耳を指先にくすぐられる。

 柔らかい唇が何度も海晴の唇を食んで、割り込まれた熱い舌が海晴の舌と絡む。くちゅ、と互いの唾液の混ざる音。手が後頭部に添えられて、ちゅ、ちゅ、と音を立てて舌を吸い上げられる。

 そうだ。
 相手も男なんだ、リードしたいのだろう。逆に、海晴はリードされることに、慣れて、いない。

「ん…ん、ふ…っ、は、ァ、む」

 吐息が乱れる。ぞくぞくする。あ、やばい。きもち、いい。
 ぎゅ、と知己のカーディガンを握る。抱き寄せる腕に力が篭る。息。うまく、できない。
 舌を擦られる。未だ耳をくすぐる、大きな手。

「ン…ンン…っ」

 喉から上ずった音が出る。乗りかかった所為で、お互いが身動ぎする度に、知己の腿が、股間に、擦れ、て。変な、感じに。
 かぁあああ、と顔が赤らむのが判る。馬鹿、なに考えて。


(だ、…だめ、)


 考えないようにすればするほど、意識してしまう。口も、舌も──下も、キモチイイ。

 離れたいのに、距離が欲しいのに、しっかりと知己が海晴を抱き込んでいる所為で、少しずつ熱を持つ股間すらバレてしまうのではないだろうか。恥ずかしさに涙が潤む。腰が、むずむずする。

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