綺麗な花には、

01


 研究の成果なんだ。

 そう告げられて、その花の世話を任されてから、3日。
 温室のようなガラス張りの部屋の真ん中に、ぽつんと置かれた花。可憐なくらい白くて、惟人は何度見ても微笑ましい気分になる。

 やるのは水ではなく、《研究の成果》。上の話ではこの花自体もそうらしいのだが、小さな鉢植えにはどこも変わったところはない。
 1研究助手に細かいところまで教えてもらえるはずもなく、恐らく手が空いていたという理由で、ついていた研究から引っ剥がされてこちらに回されてきた。

 それでさせられてるのが花の水遣りなんだから、切なくもなる。閉ざされた狭い温室の中にちょんと置かれた花の愛らしさだけが、惟人の気持ちを和らげた。

「いいけどさ…。お前、元気で居ろよー」

 白い花に向けて声を掛け、惟人は日課を続けていた。


+++


 異変が起こったのは、花びらの縁が僅かに赤く染まり始めたとき。

「ん? なんだお前、色変わる――…」

 のか、と続ける間すらなく、白い花の中心から、ブシュッと液体が噴出した。

「ぅげッ?!」

 様子を窺おうと近付いた惟人の顔面に、その粘っこい液体は大量に掛かった。

『どうした、倉田くん』

 温室にこの花の研究主たる教授の声が響き、惟人は胸のマイクに向けて報告する。温室にはこの花しかなく、水を遣るのも惟人ひとりが密室に入らなければいけないのだ。
 教授は温室の外からガラスを通して観察している。

「ぅへー…。どうしたもこうしたもないですよー。なんか花の真ん中から液体が出て掛けられて…うぅ気持ちワル…なんかネバネバしてます、透明で…匂いは、ない、かな」


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